胃がんの早期発見

公開:2021年10月 更新:2022年11月 監修: 九州大学大学院
消化器・総合外科 診療准教授
沖 英次 先生

胃がんとは

胃の構造

胃は袋状の形をしており、みぞおちの裏あたりにある器官です。胃の入り口を「噴門(ふんもん)」、出口を「幽門(ゆうもん)」といいます。胃は、噴門側から「胃底部」、「胃体部」、「幽門部」の3つの部位に大きく分かれ、胃の壁は内側から「粘膜」、「粘膜下層」、「固有筋層」、「漿膜(しょうまく)下層」、「漿膜」とよばれる層になっています(図1)

図1胃の構造

日本胃癌学会編:「胃癌取扱い規約第15版」(金原出版),p3 2017
がん情報サービスを基に作図

胃がんの原因とは?

胃がんは、胃壁の粘膜の細胞がなんらかの原因でがん細胞となり、がん細胞が増えて周りに広がることで粘膜から外側へと進行していきます。
胃がんのリスクを高める要因として、喫煙やヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染などが挙げられます。タバコを1日20本以上吸う人はまったく吸わない人に比べて2倍1)(男性の場合)、ピロリ菌に感染している人は感染していない人に比べて5.1倍2)、それぞれ胃がんになりやすいと言われています。また、塩分の多い食事も胃がんのリスクを高めることが報告されています3)

1)Sasazuka S, et al.: Int J Cancer. 101(6); 560-566, 2002
2)Sasazuka S, et al.: Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.15(7); 1341-1347, 2006
3)日本臨床腫瘍学会編:新臨床腫瘍学改訂第6版, 2021, p.422, 南江堂

どんな症状があらわれる?

胃がんになっても、初期にはほとんど自覚症状はありません。
みぞおちの痛みや不快感・違和感、腹部の張り、胸やけ、吐き気、食欲不振などの症状がみられることがありますが、これらは胃がんだけにみられる症状ではありません。

  • イラストイメージ

    みぞおちの痛み

  • イラストイメージ

    腹部の張り

  • イラストイメージ

    胸やけ

  • イラストイメージ

    吐き気

笹子三津留:インフォームドコンセントのための図説シリーズ胃がん 改訂3版, 医薬ジャーナル社, 2018, p38を基に作図

がんが進行すると、食べたものがつかえる感じがする、吐血、黒い便、腹部のしこりなどのほかに、体重減少や貧血症状(めまいや息切れ)、疲れやすさなどの症状があらわれることもあります。ただし進行しても症状がない場合もあり、 症状のあらわれ方には個人差があります。

  • イラストイメージ

    ふらつき、めまい

  • イラストイメージ

    吐血

笹子三津留:インフォームドコンセントのための図説シリーズ胃がん 改訂3版, 医薬ジャーナル社, 2018, p40を基に作図

さらに進行すると、胃がん自体、あるいはがんの周囲のリンパ節が胆道を圧迫し、胆汁の流れが悪くなって黄疸になることがあります。また、胃がんが転移した部位によっては肝不全や呼吸不全、意識障害、骨折などさまざまな症状があらわれることもあります。(リンク:胃がんの診断と治療 再発・転移)

胃がんの早期発見のためには胃がん検診を定期的に受けることが大切です。上記のような気になる症状があれば医療機関へご相談ください。

胃がん検診はなぜ大切?

胃がんは日本で患者数(罹患数)が2番目に多いがんで、1年間に約12万6000人(2018年)が胃がんと診断されています。さまざまながんの中で男性は前立腺がんに次いで2番目に多く、女性では肺がんに次いで4番目となっています(図2)4)。年齢別にみると、胃がんは男女とも50歳以降から増加し、高齢になるほど多くなっています(図3)5)
胃がんによる死亡者数は1年間に約4万2000人(2020年)で、肺がん、大腸がんに次いで3番目に多いものの6)、最近は男女ともに死亡者数は減っています(図4)7)。胃がんの死亡者数が減っている要因として、患者数の減少や胃がん治療・検査技術の向上のほか、がん検診の普及などもあげられます。
胃がんは、早期に発見し適切な治療を受ければ治癒の可能性もあり、ステージⅠ(ステージ分類については『治療方針の決定』を参照)の場合には5年生存率は99%まで向上しています(全がん協生存率調査)。しかし、初期の胃がんには自覚症状がほとんどありません。そのため、がん検診を定期的に受けて、なるべくはやく発見することが大切です。また、気になる症状があれば、がん検診を待たずに医療機関を受診しましょう。

図22018年の患者数が多い部位

がんの統計2022部位別がん罹患数(2018年),p23を基に作成

図3胃がんの年齢階級別罹患率推移

がんの統計2022年齢階級別がん罹患率推移,p56

図4胃がんの年齢階級別死亡率推移

がんの統計2022年齢階級別がん死亡率推移,p49

4) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計2022,p23
5) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計2022,p56
6) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計2022,p46
7) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計2022,p49

監修者略歴

九州大学大学院
消化器・総合外科 診療准教授
沖 英次(おき えいじ)先生

  • 1993年 3月九州大学医学部医学科卒業
  • 1993年 6月九州大学医学部附属病院 第二外科 研修医
  • 1994年 4月佐賀県立病院好生館 外科 医員
  • 1999年 3月Harvard Medical School ダナ・ファーバー癌研究所
    リサーチアソシエイト
  • 1999年 3月九州大学大学院医学系研究科外科学専攻修了
    (腫瘍センター)
  • 2001年 5月宗像医師会病院 外科 医員
  • 2003年 4月九州大学医学部附属病院 第二外科 医員
  • 2004年 4月九州大学病院 助手
  • 2007年 5月九州大学病院 助教
  • 2008年 4月国立病院機構九州がんセンター 消化器外科
  • 2010年 4月国立病院機構別府医療センター 外科
  • 2011年 4月九州大学大学院 消化器・総合外科 助教
  • 2011年 7月九州大学大学院 消化器・総合外科 講師
  • 2014年 4月九州大学大学院 外科分子治療学講座 准教授
  • 2016年 1月九州大学大学院 消化器・総合外科 診療准教授
  • 【資格】
  • 日本外科学会 専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会 専門医・指導医
  • 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医
  • 日本内視鏡外科学会 技術認定医・ロボット
    支援手術プロクター
  • 日本食道学会 食道科認定医
  • 【所属学会】
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本癌治療学会
  • 日本臨床腫瘍学会
  • 日本胃癌学会
  • 日本内視鏡外科学会
  • 日本消化器癌発生学会
  • 日本癌学会
  • 日本食道学会
  • 日本がん分子標的治療学会
  • 日本癌転移学会
  • 日本大腸肛門病学会
  • American College of Surgeon (ACS)
  • American Society of Clinical Oncology (ASCO)
  • European Society of Medical Oncology (ESMO)
pagetop