胃がんの治療方法

公開:2021年10月 更新:2022年11月 監修:大阪大学大学院
消化器外科 准教授
黒川 幸典 先生

胃がんの切除方法

内視鏡治療

内視鏡治療は、内視鏡で胃の内部を見ながら、特殊な器具で胃の粘膜をはぎ取るようにして病変部を切除する治療法です。おなかを開くことなく、病変部だけを取り除くので、外科手術に比べて体への負担が小さく、治療後の食生活に影響が少ない方法です。
がんが粘膜にとどまっていて、リンパ節転移の可能性が極めて低い早期のがんで、がんを一度に切除できると考えられる場合に行われます。
内視鏡治療で病変部を切除する方法として、以前は病変部に輪状のワイヤーをかけて切除する「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」が用いられていましたが、現在では病変部を高周波ナイフで一括に切除する「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」が一般的です(図1)
内視鏡治療後は、切除した組織を病理診断で詳しく調べます。がんを確実に取りきることができ、またリンパ節転移の可能性が極めて低い場合には、このまま経過観察します。一方、がんが確実に取りきれなかった場合や、取りきれていてもリンパ節転移の可能性がある場合には、後日、追加で外科手術を行います。
内視鏡治療後の合併症として、治療した部分に穴があいてしまう「穿孔(せんこう)」や「出血」などが起こることがあります。治療後に強い痛みやおなかの張り、発熱、血がまじった痰、黒い便などの症状があれば、すぐに担当医や看護師に知らせましょう。

図1内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

国立がん研究センターがん情報サービス
比企直樹:よくわかる最新医学胃がん 初版, 2016 p47, 主婦の友社
笹子三津留:インフォームドコンセントのための図説シリーズ胃がん 改訂3版, 2018, p56-57, 医薬ジャーナル社 を基に作図

外科手術

内視鏡治療でがんを取りきることが難しい場合には、外科手術が勧められます。胃がんの外科手術には、おなかを20cmほど開いてがんを切除する「開腹手術」と、おなかに1cm程度の小さな穴を開けてカメラと器具を挿入してがんを切除する「腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術」があります(図2)

図2外科手術のイメージ
図:開腹手術
図:腹腔鏡下手術

開腹手術と腹腔鏡下手術には、それぞれメリットとデメリットがあります(表)。どちらを選択するかは、担当医とよく話し合って決めてください。なお、腹腔鏡下手術を選択しても、手術の途中で、このまま腹腔鏡で進めるのは難しいと判断された場合には、開腹手術に切り替えることもあります。
また、腹腔鏡下手術には、手術支援ロボットを操作しながら行う「ロボット支援下内視鏡手術」もあり、一部の施設では健康保険の適応となっています。

外科手術のメリット・デメリット

黒川幸典先生ご監修

切除の種類と再建術

胃がんの外科手術では、がんと胃の一部またはすべてを取り除きます。
胃の切除方法には、「胃全摘術」、「幽門側胃切除術」、「噴門側胃切除術」などがあります(図3)。胃をどの程度切除するかは、がんのある部位や大きさ、深達度などによって決めていきます。

胃全摘術:

胃をすべて切除する方法で、がんが胃の上部にある場合や胃の広範囲に広がっている場合に行います。

幽門側胃切除術:

胃の出口(幽門)側2/3以上を切除する方法で、がんが胃の中部か下部にある場合に行います。

噴門側胃切除術:

胃の入口(噴門)側を切除する方法で、がんが胃の上部にある場合に行います。

さらに、外科手術では、胃の周囲のリンパ節を取り除く「リンパ節郭清(かくせい)」や、胃を切除した後に胃と腸などをつないで、食べ物の通り道をつくりなおす「消化管再建術」も行います。

図3切除の種類と再建法

小山恒夫、医療情報科学研究所編:病気がみえる vol.1消化器 第6版, p131, 2021, メディックメディア
国立がん研究センター東病院を基に作図

術後のケア

胃切除後症候群と術後の合併症

個人差はありますが、胃を切除すると、さまざまな症状が出ることがあり、それらを「胃切除後症候群」といいます。主な胃切除後症候群には「ダンピング症候群」や「貧血」、「逆流性食道炎」、「骨粗しょう症」などがあります。
胃切除後症候群は、食事の食べ方を工夫したり薬を服用することで、ある程度は抑えることが可能です。

ダンピング症候群:

ダンピング症候群には、食後30分以内に冷や汗、動悸、めまい、腹痛、下痢、嘔吐などの症状が起こる「早期ダンピング症候群」と、食後2~3時間に全身脱力感、倦怠感、頭痛、発汗などの症状が起こる「後期ダンピング症候群」があります。ダンピング症候群は、食べ物が短時間で腸へ流れ込むために生じ、胃の全摘または幽門部を切除した場合に起こりやすいといわれています。

貧血:

胃を切除すると、鉄分の吸収力やビタミンB12の吸収力が低下し、貧血になりやすくなります。動悸や息切れ、めまい、疲れやすいといった症状が胃切除の2~3ヵ月後から起こることがあります。

逆流性食道炎:

胃の噴門部を切除すると、胃液や腸液、胆汁などの消化液が逆流しやすくなり、胸やけなどの症状が出ることがあります。

骨粗しょう症:

胃を切除すると、カルシウムの吸収が悪くなるため、骨密度が低下し、骨粗しょう症になりやすくなります。

外科手術では、術後の「出血」や「肺炎」、縫ったところがうまくくっつかない「縫合(ほうごう)不全」、お腹の中に膿(うみ)の塊ができる「腹腔内膿瘍(のうよう)」、膵臓の分泌液である膵液がお腹の中にもれる「膵液瘻(ろう)」などの術後合併症が生じることもあります。高齢の人、喫煙者、肥満の人、呼吸器の病気、心臓病、腎臓病、肝臓病、糖尿病などがある人、栄養状態の悪い人、長期にわたって副腎皮質ホルモン薬(ステロイド薬)を飲んでいる人などは術後合併症を起こしやすいとされています。術後合併症を予防するために、術後は腹式呼吸や早期離床に積極的に取り組み、また喫煙者は禁煙に努めましょう。

胃切除後の食生活

胃がんで胃を切除した患者さんが食べてはいけないものは特にありません。手術後1年程度は無理をせず、少量ずつ何回かに分けて、よく噛んで、ゆっくり食べることを基本に、新しい胃の状態に応じた食べ方に慣れていくことが大切です。少しずつしか食べられないため、水分の摂取量が減りがちになります。固形物とは別の時間に(空ける時間の目安は30~60分)、水分を積極的にとるようこころがけましょう。食事の内容は、消化がよいものを選び、油を控えめに、しっかり加熱してやわらかめに調理したものがよいでしょう。

図4食事のとり方例
  • 1日7回食の場合
  • 1日6回食の場合
  • 1日5回食の場合

比企直樹:よくわかる最新医学胃がん 初版, 主婦の友社, 2016 p111を基に作図

胃がんの薬物療法

胃がんの薬物療法とは

胃がんの薬物療法には、再発予防のために手術と組み合わせて行う「補助療法」と、手術が難しい状況でがんの進行を抑えたり、症状をコントロールしたりする目的で行う薬物療法があります。補助療法には、手術前に行う「術前補助療法」と、手術後に行う「術後補助療法」があります。手術でがんを切除しても、目に見えない小さながんが残っていて、それが後に再発につながることがあります。そこで、手術後の再発を予防するために、ステージがⅡ以上だった場合には術後補助化学療法を行う場合が多いです。
また、薬剤の種類により、「化学療法(抗がん剤)」、「分子標的療法(分子標的薬)」、「がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)」に大きく分けられます。どのような薬物療法を行うかは、患者さんのがんの状況や臓器の機能、予想される副作用なども含めて、患者さんと担当医で話し合って決めていきます。

化学療法

化学療法とは、いわゆる「抗がん剤」を用いる治療で、がん細胞に直接作用して、がん細胞を死滅させることを狙いとしています。
がん細胞は、いくつかの段階を経て分裂し、増殖します。抗がん剤は、主にがん細胞の増殖過程を妨げることで、がん細胞の増殖を抑えます。がん細胞は正常な細胞よりも活発に増殖する特徴があるため、抗がん剤は正常な細胞よりもがん細胞に作用しやすく、効果を発揮できます。
胃がんに対する化学療法で使われる薬剤には「フッ化ピリミジン系薬剤」、「プラチナ系薬剤」、「トポイソメラーゼ阻害薬」、「タキサン系薬剤」などがあり、これらの薬剤を単独または組み合わせて使用します。

分子標的療法

分子標的療法とは、がん細胞の増殖に関係する特定の分子を標的とした「分子標的薬」を用いて、がんの増殖を抑える治療です。
胃がんの分子標的療法では、がん細胞の増殖に関係するHER2(ヒト上皮細胞増殖因子受容体2)というタンパク質を標的とした分子標的薬や、がん細胞に栄養を供給する血管の細胞に発現しているVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)というタンパク質を標的とした分子標的薬が用いられます。

がん免疫療法

私たちの体には、ウイルスなど「自分でないもの」を攻撃するシステム(免疫機能)が備わっています。しかし、がん細胞は免疫機能にブレーキをかけることで攻撃から逃れて、増殖します。「免疫チェックポイント阻害薬」は、がん細胞が免疫機能にブレーキをかけている部分(免疫チェックポイント)に作用してブレーキがかからないようにする薬剤で、患者さんが本来持っている免疫力でがん細胞を攻撃します。

監修者略歴

大阪大学大学院
消化器外科 准教授
黒川 幸典(くろかわ ゆきのり)先生

  • 1997年 3月慶應義塾大学医学部医学科卒業
  • 1997年 6月大阪大学 第二外科 研修医
  • 1998年 6月国立大阪病院 外科 レジデント
  • 2003年 9月米国マイアミ大学 肝臓消化器移植科
  • 2004年 6月大阪大学医学部附属病院 消化器外科 医員
  • 2005年 4月国立がんセンター ポスドクフェロー
  • 2007年 9月国立病院機構大阪医療センター 外科 医師
  • 2010年 4月大阪大学大学院 消化器外科 助教
  • 2013年 4月大阪大学大学院 消化器外科 学部内講師
  • 2020年 2月大阪大学大学院 消化器外科 講師
  • 2021年 4月大阪大学大学院 消化器外科 准教授
  • 【資格】
  • 日本外科学会 認定医・専門医・指導医
  • 日本消化器外科学会 専門医・指導医
  • 日本内視鏡外科学会 技術認定医(胃)・ロボット支援
    手術認定プロクター(胃)
  • 日本食道学会 食道科認定医
  • 【所属学会】
  • 日本外科学会
  • 日本消化器外科学会
  • 日本内視鏡外科学会
  • 日本胃癌学会
  • 日本食道学会
  • 日本癌治療学会
  • 米国外科学会
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