肺がんの早期発見

公開:2021年7月
更新:2023年1月
監修:埼玉医科大学国際医療センター 呼吸器内科 教授
兼 がん薬物療法・遺伝子治療センター長
解良 恭一 先生

肺がんとは

肺の構造

肺は右肺と左肺に分かれた構造をとっており、右肺は「上葉(じょうよう)」「中葉(ちゅうよう)」「下葉(かよう)」の3つの「肺葉(はいよう)」に、左肺は「上葉」と「下葉」の2つの肺葉に分かれています。
肺は、体の中に空気中から酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する役割を担っています。呼吸によって口や鼻から入った空気は、気管を通って左右の肺に入り、さらに枝分かれして、気管支の先にある「肺胞」へ流入します。気管から左右に枝分かれしたものを「気管支」といい、太い気管支が細かく分かれて肺に入っていくあたりを「肺門」、肺門の先を「肺野」といいます(図1)。肺胞は小さな袋のようなもので、ここで酸素と二酸化炭素の交換が行われます。

図1肺の構造
図1:肺の構造

肺がんの原因とは?

私たちの体を構成する細胞は、必要なときにだけ増殖するように「遺伝子」でコントロールされています。しかし、この仕組みをコントロールしている遺伝子に異常(変異)が生じると、細胞は際限なく増殖するようになってしまいます。こうした際限なく増殖する細胞を「がん細胞」といい、それが集まったものを「がん」といいます。
肺がんの発症に関連する遺伝子は十分には解明されていませんが、喫煙は肺がんの最大の危険因子であることが知られており、喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんになる危険性が男性で4.4倍、女性で2.8倍高いことが報告されています 1)。タバコを吸わない人でも、周囲に流れるタバコの煙を吸うことで(受動喫煙)、タバコの害を受けてしまうこともあります。そのほかに、アスベスト2)などの有害化学物質や大気汚染などの環境因子、肺がんの既往歴や家族歴、年齢3)なども肺がんを発症するリスクを高めると考えられています。

1) Wakai K, et al.: Jpn J Clin Oncol.36(5); 309-324. 2006
2) Hammond EC, et al.: Ann NY Acad Sci.330; 473-490. 1979
3) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2022, p.51

どんな症状があらわれる?

初期の肺がんでは、症状があらわれることはほとんどありません。
進行すると、咳や痰、血痰(血が混じった痰)、呼吸困難(息切れ、息苦しさ)、胸の痛みなどの呼吸器症状や、体重減少などがあらわれることもありますが、これらの症状は必ずしも肺がんに特有なものではありません。
症状が似ているために肺がんと間違えやすい病気には、気管支炎、気管支拡張症、気管支ぜんそく、肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがあります。
そのため、複数の症状を自覚したり、長引いたりして気になる場合は、医療機関を受診することが大切です。

肺がん検診はなぜ大切?

日本では1年間に男女合わせて約12万3000人(2018年)が肺がんを発症しており、さまざまながんの中で男性では大腸がんに次いで4位、女性では3位となっています (表)4)。年齢別にみると、高齢になるほど肺がんの罹患率が高くなり、近年は男女とも70歳以上で罹患率が大きく増加しています(図2)3)
肺がんによる年間死亡者数は約7万6000人(2020年)で、これはさまざまながんの中でも第1位です5)。男女とも高齢になるほど肺がんによる死亡率は高くなり、近年は80歳以上の死亡率が増加しています(図3)6)
肺がんは初期症状があらわれにくく、進行すると治療による改善が得られにくくなります。しかし、肺がんの約半数は進行した段階で見つかっています7)。そのため、肺がん検診を積極的に受けて、早期に発見し、早期に治療することが大切です。

2018 年の患者数が多い部分
表:2016 年の患者数が多い部分

がんの統計 2022 部位別がん罹患数(2018年),p23

図2肺がんの年齢階級別罹患率推移
図2:肺がんの年齢階級別罹患率推移

がんの統計 2022 年齢階級別がん罹患率推移p58より一部改変

図3肺がんの年齢階級別死亡率推移
図3:肺がんの年齢階級別死亡率推移

がんの統計 2022 年齢階級別がん死亡率推移p51より一部改変

3) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2022, p.58
4) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2022, p.23
5) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2022, p.46
6) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2022, p.51
7) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2022, p.29

監修者略歴

埼玉医科大学国際医療センター 呼吸器内科 教授
兼 がん薬物療法・遺伝子治療センター長
解良 恭一(かいら きょういち)先生

  • 1997年 3月和歌山県立医科大学医学部卒業
  • 1997年 5月群馬大学医学部附属病院
    第一内科 研修医
  • 1999年 5月国立病院機構西群馬病院
    呼吸器科 医員
  • 2003年 4月前橋赤十字病院 呼吸器科 副部長
  • 2005年 4月群馬大学大学院医学系研究科
    病態制御内科学 医員
  • 2007年 7月群馬大学大学院医学系研究科
    博士課程修了
  • 2008年 4月静岡県立静岡がんセンター
    呼吸器内科 副医長
  • 2010年  10月群馬大学大学院医学系研究科
    病態制御内科学 医員
  • 2012年 5月群馬大学医学部附属病院
    腫瘍センター 助教
  • 2013年 8月群馬大学大学院医学系研究科 寄付講座
    がん治療臨床開発学 特任講師
  • 2016年 4月群馬大学大学院医学系研究科 寄付講座
    がん治療臨床開発学 特任教授
  • 2018年 5月埼玉医科大学国際医療センター
    呼吸器内科 教授
  • 2019年 4月埼玉医科大学国際医療センター
    通院治療センター長
  • 2022年 8月埼玉医科大学国際医療センター
    がん薬物療法・遺伝子治療センター長 兼任
  • 【資格】
  • 日本内科学会 総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会 専門医・指導医
  • 日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
  • 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医
  • 【所属学会】
  • 日本臨床腫瘍学会 協議員
  • 日本内科学会
  • 日本呼吸器学会
  • 日本肺癌学会 評議員
  • 日本癌治療学会
  • 日本癌学会
  • 米国臨床腫瘍学会
  • 欧州臨床腫瘍学会
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