手術療法・放射線療法

公開:2021年7月 更新:2022年11月 監修: 広島大学病院 呼吸器外科 診療講師
見前 隆洋 先生

手術療法

肺がんの手術療法は、肉眼で確認できるがん細胞のすべてを取り除く治療法で、がんの根治を目指した治療法です。主に対象となるのは、小細胞肺がんのステージⅠ・ⅡA期、非小細胞肺がんのステージⅠ・Ⅱ期および一部のⅢ期の患者さんです(ステージ別の治療方針)。

手術療法の種類

右の肺は「上葉(じょうよう)」「中葉(ちゅうよう)」「下葉(かよう)」の3つの「肺葉(はいよう)」に、左の肺は「上葉」と「下葉」の2つの肺葉に分かれています。肺がんの手術は、切除する範囲によって主に3つの種類があります(図1)

肺全摘術:

がんがある側の肺全体を切除する手術で、がんが肺の中心部に存在する時や複数の肺葉にまたがる時など、比較的大きながんの場合に行われます。しかし、体に大きな負担のかかる手術であるため、近年ではできるだけ避けるようになっています。

肺葉切除術:

がんのある肺葉を1つまたは2つ丸ごと切除する手術で、肺全体を切除しなくてもよい時に行われます。

縮小手術:

小さな範囲を切除する手術で、肺葉の中のがんのある区域のみを切除する「区域切除」と、がんとその周辺を楔形(くさびがた)に切除する「楔状(けつじょう)切除」(「部分切除」ともいう)があります。主に、がんの大きさが2cm以下で、リンパ節転移がないと予想される時や、肺葉切除以上の切除に耐えられない時に行われます。

図1手術方法
図1:手術方法

国立がん研究センターがん情報サービス

多くの手術では、肺を切除するのと同時に、周囲のリンパ節も摘出して(リンパ節郭清(かくせい))、がんがリンパ節に転移しているかどうかを調べます。

手術の方法

肺がんの手術の方法には、「開胸手術」、「胸腔鏡手術」と「ロボット支援下手術」があります。

開胸手術(図2):

背中側から皮膚を10~30cm程度切開して胸を開け、病巣を切除する手術です。進行したがんの手術や、がんが太い血管に食い込んでいる可能性がある場合などに行われます。

図2開胸手術
図2:開胸手術
胸腔鏡手術(図3):

胸部に小さな孔(ポート)を開け、そこから胸腔鏡や手術器具を挿入して行う手術です。以前は主に早期の肺がんなどで行われていましたが、最近は大きな肺がんに対しても行われるようになっています。大きな傷でも4cm以下までで行う「完全胸腔鏡下手術」と、4~5cm程度までの傷で胸の中を直接見つつ、胸腔鏡を入れてカメラがとらえた画像をモニターでも見ながら手術を進める「胸腔鏡補助下手術(ハイブリッドVATS(バッツ))」もあります。

図3胸腔鏡手術
図3:完全胸腔鏡下手術
図3:胸腔鏡補助下手術(ハイブリッドVATS(バッツ))
ロボット支援下手術(図4):

胸腔鏡手術のように小さな傷で行います。ロボットを用いることで3Dで立体的に見ることができ、胸腔鏡の機器と比べて可動性の良いロボットの腕で手術が可能です。保険適応されて間もない方法で、現在広まりつつあります。

図4ロボット支援下手術
図4:ロボット支援下手術

いずれの手術方法(アプローチ)にもそれぞれの良い点があり、どの手術が一番良いということは難しいですが、その施設でもっとも慣れている方法で行われることが安全で確実にがんを取ることにつながります。
手術後の入院期間は、手術方法によらず肺を取る範囲により違いがあり、一般的に楔状(部分)切除で3~5日間程度、区域切除で5~7日程度、肺葉切除術で5~8日間程度、肺全摘術で10~14日間程度です。

術後のケア

術後の合併症とその予防

肺がんの術後は、痛みや麻酔などの影響で呼吸が浅くなり、痰をうまく出せなくなって、肺炎を起こすことがあります。痰を出しやすくするため、また呼吸機能を回復するために、看護師やリハビリテーションスタッフの指導により術前術後のリハビリテーションを行います。手術後は痛み止め等の薬を適切に使用することでそうした動作がやりやすくなります。特に、喫煙している人は手術後の痰の量が多くなりやすく肺炎などの合併症につながることがあるので、手術の前から必ず禁煙しましょう。また、食事や運動などの日常生活に気をつけて体力を維持することや、口腔ケアを行って口の中を清潔に保つことは、手術後の息苦しさをやわらげたり、肺炎の予防にもつながります。長時間寝ていると、痰が出にくくなったり、足に血の塊(血栓)ができて血管がつまる元になることがあります。そのため、麻酔から覚めたら、手足を動かし、なるべく早く上体を起こしたり、歩き始めたりしましょう。体力が低下している場合には、トレーニングマシンを使って持久力を高める訓練を行う施設もあります。また、水分を十分摂取するとともに、痛み止めの薬を使用して、しっかり咳をして痰を出すように努めましょう。
手術による傷の痛みのほかに、肋骨に沿った痛みや前胸部などに痛み(神経痛)が出ることもあります。痛みを我慢せず、積極的に医師や看護師に伝えることで、痛みの程度などに応じて、痛み止めの薬を替えたり、増やすなどの処置を受けることができます。
なお、手術後に声がかすれることもあります。

放射線療法

放射線療法とは

放射線療法とは、体の外から高エネルギーのX線などの放射線を照射して、がん細胞を死に至らしめる局所の治療法です。手術のように、がんを体から取り除くわけではありませんが、がん細胞を完全に死滅させることができれば、その後はがんが悪さをすることはありません。何らかの理由で手術ができない人や、どうしても手術を受けたくない人に行われるほか、手術や薬物療法と併用することもあります。また、骨などにあるがんで痛みがある場合に、痛みを緩和する目的で行われることもあります。
放射線療法に用いられる放射線には、高エネルギーのⅩ線のほかに電子線や陽子線、重粒子線、α(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線などが用いられます。放射線が治療に使われはじめてから100年以上が経ち、高い治療効果と少ない副作用をめざして放射線療法は大きく進歩しており、がん細胞に多くの放射線量を照射するとともに、周囲の正常組織への影響をできる限り少なくする方法が開発されています。ただし、放射線治療はあくまで当てた部位のみの治療ですので、全身にがんが回っている状態では治し切ることを目指すことは困難です。
放射線療法の治療時間は、初回だけは時間がかかりますが、2回目以降は1回2~3分で、病院によっては外来で行っているところもあります。肺がんに対する放射線療法の治療スケジュールは、月曜日~金曜日まで続けて行い、土曜日と日曜日は休むというサイクルが一般的です。これを、非小細胞がんの場合は6~8週間行うのが標準で、小細胞がんでは1日2回週5回・合計3週間続ける「加速過分割照射」が行われることもあります。

放射線療法の副作用

放射線療法では、放射線が照射された部分の皮膚が赤くなったり、乾燥してむけるといった日焼けのような変化が起こり、かゆみや痛みを生じることもあります。かいたり、こすったりすると、症状が強くなるので、刺激を避けることが大切です。また、熱すぎるお風呂は避け、ぬるめのお風呂にしましょう。かゆみやヒリヒリした感じがある場合には、冷たいタオルなどで冷やすと症状が軽くなることがあります。
食事の時に胸がしみる感じや痛みを感じることもあります。胸がしみる感じがしたり、痛みがあるときには、医師に相談したり、刺激の少ないものを食べるように心掛けましょう。
放射線療法中、疲労感を感じることもあります。疲れたら休養を十分にとり、またカゼなどを引かないよう健康管理に気をつけましょう。肺がんの場合は、がんだけではなく周囲の正常な肺に直接放射線が当たることは避けられないため、放射線による肺炎を起こすこともあります。咳が止まらない、呼吸が苦しい、38℃以上の発熱などがある場合は、かかっている医療機関に連絡しましょう。

監修者略歴

広島大学病院
呼吸器外科 診療講師
見前 隆洋(みまえ たかひろ)先生

  • 2003年 3月広島大学医学部医学科卒業
  • 2003年 5月広島大学原爆放射線医科学研究所
    腫瘍外科 医員(研修医)
  • 2004年 4月広島市立広島市民病院 外科 医員
  • 2006年 4月独立行政法人国立病院機構四国がんセンター
    外科 レジデント
  • 2009年 5月東京大学医科学研究所
    人癌病因遺伝子分野(国内留学)
  • 2012年 3月広島大学大学院医歯薬学総合研究科
    博士課程修了
  • 2012年 4月広島大学病院 呼吸器外科 医科診療医
  • 2012年 9月広島大学原爆放射線医科学研究所 助教
  • 2015年 4月Memorial Sloan Kettering Cancer Center
    Research Fellow
  • 2018年 4月広島大学病院 呼吸器外科 助教
  • 2020年 7月広島大学病院 呼吸器外科 診療講師
  • 【資格】
  • 日本外科学会 外科専門医
  • 日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医
  • 【所属学会】
  • 日本外科学会
  • 日本胸部外科学会
  • 日本呼吸器外科学会
  • 日本肺癌学会
  • 日本乳癌学会
  • 日本食道学会
  • 日本癌学会
  • 日本臨床腫瘍学会
  • 日本癌治療学会
  • AACR(American Association of Cancer Research)
pagetop