肺は右肺と左肺に分かれた構造をとっており、右肺は「上葉(じょうよう)」「中葉(ちゅうよう)」「下葉(かよう)」の3つの「肺葉(はいよう)」に、左肺は「上葉」と「下葉」の2つの肺葉に分かれています。
肺は、体の中に空気中から酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する役割を担っています。呼吸によって口や鼻から入った空気は、気管を通って左右の肺に入り、さらに枝分かれして、気管支の先にある「肺胞」へ流入します。気管から左右に枝分かれしたものを「気管支」といい、太い気管支が細かく分かれて肺に入っていくあたりを「肺門」、肺門の先を「肺野」といいます(図1)。肺胞は小さな袋のようなもので、ここで酸素と二酸化炭素の交換が行われます。
私たちの体を構成する細胞は、必要なときにだけ増殖するように「遺伝子」でコントロールされています。しかし、この仕組みをコントロールしている遺伝子に異常(変異)が生じると、細胞は際限なく増殖するようになってしまいます。こうした際限なく増殖する細胞を「がん細胞」といい、それが集まったものを「がん」といいます。
肺がんの発症に関連する遺伝子は十分には解明されていませんが、喫煙は肺がんの最大の危険因子であることが知られており、喫煙者は非喫煙者に比べて肺がんになる危険性が男性で4.4倍、女性で2.8倍高いことが報告されています 1)。タバコを吸わない人でも、周囲に流れるタバコの煙を吸うことで(受動喫煙)、タバコの害を受けてしまうこともあります。そのほかに、アスベスト2)などの有害化学物質や大気汚染などの環境因子、肺がんの既往歴や家族歴、年齢3,4)なども肺がんを発症するリスクを高めると考えられています。
1) Wakai K, et al.: Jpn J Clin Oncol.36(5); 309-324. 2006
2) Hammond EC, et al.: Ann NY Acad Sci.330; 473-490. 1979
3) 日本肺癌学会編:患者さんと家族のための肺がんガイドブックWEB版(2024年10月)
(https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2024/2024/Q1.html)
4) 公益財団法人がん研究振興財団.がんの統計2024,p.55
初期の肺がんでは、症状があらわれることはほとんどありません。
進行すると、咳や痰、血痰(血が混じった痰)、呼吸困難(息切れ、息苦しさ)、胸の痛みなどの呼吸器症状や、体重減少などがあらわれることもありますが、これらの症状は必ずしも肺がんに特有なものではありません。
症状が似ているために肺がんと間違えやすい病気には、気管支炎、気管支拡張症、気管支ぜんそく、肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがあります。
そのため、複数の症状を自覚したり、長引いたりして気になる場合は、医療機関を受診することが大切です。
日本では1年間に男女合わせて約12万7000人(2019年)が肺がんを発症しており、さまざまながんの中で男性では大腸がんに次いで4位、女性では3位となっています (表)5)。年齢別にみると、高齢になるほど肺がんの罹患率が高くなり、近年は男女とも70歳以上で罹患率が大きく増加しています(図2)6)。
肺がんによる年間死亡者数は約70,000人(2022年)で、これはさまざまながんの中でも第1位です7)。男女とも高齢になるほど肺がんによる死亡率は高くなり、近年は80歳以上の死亡率が増加しています(図3)8)。
肺がんは初期症状があらわれにくく、進行すると治療による改善が得られにくくなります。しかし、肺がんの約半数は進行した段階で見つかっています9)。そのため、肺がん検診を積極的に受けて、早期に発見し、早期に治療することが大切です。
がんの統計 2024 部位別がん罹患数(2019年),P.23を基に作成
公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計2024,P.53
公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計2024,P.46
5) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2024, P.23
6) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2024, P.53
7) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2024, P.41
8) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2024, P.46
9) 公益財団法人がん研究振興財団. がんの統計 2024, P.27
埼玉医科大学国際医療センター 呼吸器内科 教授
兼 がん薬物療法・遺伝子治療センター長
解良 恭一(かいら きょういち)先生