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新型コロナウイルス感染症
(COVID-19)時代において適切な
肺がん診療を受けていただくために

千葉大学医学部附属病院 腫瘍内科 教授
滝口 裕一先生

 肺がんの治療は外科治療(手術)、放射線治療、薬物治療に大別され、病気の進行具合や患者さんの状況に応じて適した治療が行われます。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)が流行する状況においても通常通りの適切な治療を継続すべく、医療従事者の方々は尽力されていますが、一方で肺がん患者さんは「自分も感染するのではないか」など、さまざまな不安を感じていると思います。
 そこで、世界的に感染予防対策が大きな課題となっているCOVID-19をテーマとして取り上げ、日本肺癌学会COVID-19対策ステートメント作成ワーキンググループ委員長として「COVID-19パンデミックにおける肺癌診療:Expert opinion」の作成に携わられた滝口裕一先生に、肺がん患者さんのCOVID-19の感染リスクやCOVID-19感染予防策などを解説いただくとともに、COVID-19時代において適切な肺がん診療を受けていただくためのアドバイスなどをお聞きしました。

【取材】
2020年10月 千葉大学
【更新】
2021年5月
 
2021年10月
滝口裕一 先生

※本内容は、取材当時のCOVID-19感染状況をもとにお話ししていただいております。掲載時の感染状況とは異なる可能性があることをご了承ください。

第2回COVID-19に対する肺がん診療の取り組みとは
公開日:2021年10月29日

 COVID-19の流行は、医療機関にとって大きな負担となっており、それによる肺がん治療への影響が懸念されます。そこで、これまでのCOVID-19流行による肺がん治療への影響や医療機関における対応などについて伺いました。

COVID-19の流行によって、がんの医療体制にはどのような影響がありましたか?

  多くの「がん診療連携拠点病院」は、新型コロナウイルスの感染者を受け入れ、その治療にあたっています。COVID-19流行の第一波に襲われた2020年3月末~5月初旬にかけて、各医療機関は新型コロナウイルスに感染した患者さんの対応に追われ、スタッフや病室、医療機器などの医療資源をCOVID-19治療にあてるため、延期できる患者さんでは手術を少し遅らせるといった対応もとられました。しかし、そのような状況でも、がん診療はCOVID-19診療を除けば、他の疾患より優先されていました。第二波、第三波時においても混乱はなく、がん診療に関しては概ね従来と同様に行われていました。しかし第五波の影響は甚大であり、再び多くの病院でがん診療を含めた通常診療への大きな影響が避けられませんでした。
 現在も、医療機関によっては検査や入院に際して患者さんにPCR検査を受けていただいたり、入院患者さんへの面会をお断りするなど、患者さん・ご家族にご不便をおかけしていますが、がん診療に関しては大きな影響はなく、各医療機関で優先して行われています。

医療機関を受診する患者さんに変化はありましたか?

 海外では、COVID-19の流行によって心筋梗塞や脳梗塞などCOVID-19とは関係ない死亡率が高くなっているのではないかといったことが懸念されています。その背景として、患者さんが医療機関の受診を控えたことなどが推測されます。日本でもCOVID-19流行の第一波当時、特に大型連休の前後は、病院での感染を心配して、患者さんが受診を控えることもありました。
 しかし、多くの病院・診療所は院内感染予防に力を入れており、来院した患者さんが医療機関で感染しないように最善の対策を講じています。こうしたことが理解され、第二波、第三波時はほぼ通常通りの診療が行われていたと思われます。
 肺がんに限らず、多くの病気は治療が遅れると、病気が進行したり、合併症が出現したりして、治療が難しくなります。そのため、現在治療中の患者さんはもちろんのこと、何か異常があれば、早めに医療機関を受診してください。

 COVID-19を恐れるあまりに、必要な受診を控えることは避けたいですね。異常を感じたときの早めの受診は、COVID-19の流行にかかわらず大切だということを忘れないようにしたいものです。

COVID-19流行時のがん診療について教えてください。

 肺がん患者さんが新型コロナウイルスに感染しやすいか、また感染した場合に重症化しやすいかどうかは不明ですが、60歳以上では死亡率が高いことが報告されており1)、がん患者さんにおいても高齢になると死亡率が高いことは同様と考えられます。COVID-19が大流行すると、医療資源はCOVID-19の患者さんに重点的に振り向けられますが、その状況でもがん患者さんへの対応を疎かにはできません。そのため、COVID-19大流行時のがん診療体制をあらかじめ計画しておくことが求められます。
 米国臨床腫瘍学会(ASCO)2)や欧州臨床腫瘍学会(ESMO)3)からCOVID-19流行下のがん診療のガイドラインが、また世界肺癌学会4)から肺がん診療のガイドラインがそれぞれ発表されています。日本でも日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会、日本癌学会3学会合同の「がん診療と新型コロナウイルス感染症:医療従事者向けQ&A」5)が作成されています。さらに、日本肺癌学会は、COVID-19流行の拡大に備えて、第一波を上回る逼迫(ひっぱく)した状況になった場合に何を優先するかなどについて検討を重ねて、2020年7月にCOVID-19流行時のがん診療に関するステートメント(声明)「COVID-19パンデミックにおける肺癌診療:Expert opinion」6)を公表しました。このステートメントでは、感染の拡大状況とその施設の状況から感染散発期、感染蔓延期、医療逼迫期の3段階に分け、それぞれの段階において優先されるべき治療や対応が示されています。各医療機関において、このステートメントを参考に、COVID-19流行時の具体的な対応がとりまとめられており、感染状況に応じた手術や化学療法などに関する計画を作成している医療機関もあります。
 他の疾患の治療についても、それぞれの医療機関でCOVID-19流行時の対応が計画されています。

滝口裕一 先生

 また、2021年2月には、ワクチン接種の開始に先立ち、ステートメントの改訂版を作成し、新たにワクチンについての記述を設けました。専門家の基本的な考え方として、一般市民におけるCOVID-19ワクチンの短期的な安全性は確認できており、ワクチン成分に対するアレルギー既往などがない限りは、がん患者さんについてもワクチン接種は薦められます6)
 今後もCOVID-19の流行状況について予断は許されませんが、仮に感染蔓延期や医療逼迫期となっても、私たちは病状の悪化が懸念される患者さんには必要な肺がん診療を行い、また診療の幅を最大限広げる努力を行いますので、受診控えなどせず治療を継続してください。

1) 厚生労働省:(2021年8月時点)新型コロナ感染症の“いま”に関する11の知識
2) ASCO Coronavirus Resources. 2020.
3) ESMO guideline: CANCER PATIENT MANAGEMENT DURING THE COVID-19 PANDEMIC. 2020.
4) IASLC's guide to COVID-19 and Lung Cancer. 2020.
5) 日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会、日本癌学会(3学会合同作成):新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向けQ&A -改訂第2版 –
6) 日本肺癌学会:COVID-19パンデミックにおける肺癌診療:Expert opinion 2021年2月14日 第2版

<参考>厚生労働省:(2021年8月時点)新型コロナ感染症の“いま”についての11の知識より

厚生労働省:(2021年8月時点)新型コロナ感染症の“いま”に関する11の知識
※最新の状況については、厚生労働省 コロナワクチンナビ:ワクチンについて(https://v-sys.mhlw.go.jp/about/)をご確認ください。

 国内外の学会からCOVID-19流行下の診療のガイドラインが作成されていることがわかりました。
 日本肺癌学会においてもステートメントが発表され、各施設における対応の指針が示されていることがわかりました。
 第3回は、がん検診の現状や定期的な受診の重要性などについてお話しいただくとともに、医療機関を受診する際のアドバイスをいだたきます。

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