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女性肺がん専門医から見た
医師の働き方改革

神戸大学医学部附属病院 呼吸器内科 特命准教授 立原 素子 先生

「患者さん中心の医療の実践」を理念に掲げる神戸大学医学部附属病院は、2007年に地域がん診療連携拠点病院、2019年にがんゲノム医療拠点病院に指定され、地域がん診療の中心的役割を担っています。呼吸器内科では、チーム医療による働きやすい環境を目指しながら、肺がんに対する早期診断、集学的治療、緩和医療に取り組んでいます。今回は、呼吸器内科 特命准教授 立原素子先生にお話をうかがいました。

立原 素子 先生

取材日:2021年6月

「患者さん中心の医療の実践」を理念に掲げる神戸大学医学部附属病院は、2007年に地域がん診療連携拠点病院、2019年にがんゲノム医療拠点病院に指定され、地域がん診療の中心的役割を担っています。呼吸器内科では、チーム医療による働きやすい環境を目指しながら、肺がんに対する早期診断、集学的治療、緩和医療に取り組んでいます。今回は、呼吸器内科 特命准教授 立原素子先生にお話をうかがいました。

公開:2022年1月25日
更新:2024年12月

医師の働き方改革を患者さんに還元する

 医師というのは病気だけを診ているわけではなく、病気を抱えている患者さん全体を診ています。患者さんの悩みや思いに共感できる医師であるために、医師自身が様々な人生経験を経て幅広い視野を持つことは大切と考えます。様々な人生経験を経ながらポジティブに働くためには、出産・子育てと仕事を両立できる職場環境など、医師それぞれのニーズに合った働き方が重要になります。

提供:立原素子先生

 私は現在、子育てをしながら働いています。医師に限らず、仕事と家事や育児、介護などを両立させることは、やりがいがあると同時に大変なこともあるでしょう。しかし、そのような経験は、患者さんが治療と仕事や家庭などの自身の生活を両立できるようにサポートする上でも役立つと思っています。こういった思いのもと、私は院内や学会などで、仕事と育児の両立について講演をしてきました。院内のキャリア支援を目的としたD&Nplusブラッシュアップセンター*の会では、医療従事者に向けて、仕事へのモチベーションを高く持ち続けキャリアアップしていく必要性、仕事と家庭を両立するための工夫、妊娠・出産後の制度を含め周囲から協力を得ることの重要性などについて紹介しました。当科では、働き方改革が叫ばれる前からカンファランスを定時までに終了するよう設定したり、病棟はチーム制で対応したりするなど、医師自身の生活も大切にできるよう心掛けてきました。また、男性女性を問わず、自身の家庭の状況を他の医師とシェアしやすい雰囲気作りに努めています。例えば、子供の発熱による男性医師の休暇取得や遅刻も通常のこととしてあります。医師が働き方を変えると聞くと、医療の質への影響に不安を感じる患者さんもいらっしゃるかもしれません。ですが、医師同士がサポートしあえる体制を作り、職場環境を整えることで、医師はワークライフバランスを保ちながら生き生きと働けるようになるため、働き方を変えることは医療の質を保つことにもつながると考えています。このように、医療の質を保ち、高めていくためにも、医師の働き方を考えることは重要です。それぞれのニーズに合った形で働ける環境のもと、すべての医師がキャリアアップをしていくことで医療の質を高め、それを患者さんに還元できれば良いと思っています。

*神戸大学医学部附属病院及び兵庫県内の関連病院に勤務する全てのメディカルスタッフを対象に、産前産後休暇、育児休業、介護休業を取得した職員のキャリア継続、復職、職場定着がスムーズに実現できるように継続的な支援を行う組織

肺がん治療と仕事

 肺がん治療として遺伝子変異に対する分子標的療法や免疫療法が登場し、診断前と変わらない生活を送りながら治療を続ける患者さんが増えてきています。病気と共に生きていくことを考える上で、仕事は精神的にも重要です。仕事を続けることで病気以外のことにも目を向けることができ、生きがいも感じられると思いますので、私は患者さんが仕事を続けながら治療できるようにサポートをしています。現在、肺がん治療の主流は入院治療から外来治療に移行しており、経口薬も含めた様々な治療の選択肢があります。がんと診断されて仕事を辞めてしまう患者さんもいらっしゃいますが、まずは医師など医療従事者に相談していただきたいと思います。
 治療と仕事や家庭生活を両立させる方法は、患者さんの希望を聞きながら一緒に考えていくことが大切です。私たちは、患者さんに患者さんらしい人生を送っていただくために治療を提供しています。ご自身の希望を治療のために諦めてしまうのではなく、医療従事者と相談しながら目標をもって治療を続けていただきたいと思っています。

肺がん領域の今後の展望

 肺がん治療は今後もさらに進歩し、患者さん個々の病態に合わせた治療がより広がるかと思われます。こういった医療の進歩には研究していくことが重要です。私はクリニカルクエスチョン(実臨床での疑問)を臨床試験に結び付けていくことが大切だと考え、患者さんに還元できるような治験や多施設共同での臨床試験、データ収集、解析などを積極的に行っています。

患者さん、ご家族へのメッセージ

 医師は多くの選択肢の中から、それぞれの患者さんに適した治療を患者さんと共に選んで提供しています。患者さんと医療従事者が同じ目標に向かって治療を進めていくことが大切と考えているため、患者さんにもご自身の治療や病状、病気の性質についてよく理解していただきたいと思います。治療や病気に関する理解は、これからの人生計画を立てる上でも大切です。インターネットで調べると多くの情報が出てきて混乱することがあると思いますので、不明な点はぜひ医療従事者に遠慮せず聞いていただきたいと思います。
 患者さんはがんと診断され、長い治療経過のなかで深く落ち込むこともあると思いますが、肺がん治療は確実に進歩しています。良いコミュニケーションをとりながら、前向きに、一緒にがん治療を進めていきましょう。

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