薬物療法

2021年7月 公開 監修: 順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学 助教
宿谷 威仁 先生

化学療法

肺がんの薬物療法とは

肺がんの薬物療法は、単独または放射線療法と組み合わせて行われます。がんを小さくして手術しやすくする目的で行う場合(術前治療)や、手術後に再発予防の目的で行われる場合(術後薬物療法)もあります。
肺がんの薬物療法に用いられる薬剤は、「化学療法(抗がん剤)」、「分子標的療法(分子標的薬)」、「がん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)」などに大きく分けられます。実際に用いられる薬剤は、肺がんの種類や病期などをもとに、薬剤の副作用や患者さんの全身状態などを考慮して決められます。

化学療法の種類

いわゆる「抗がん剤」を用いる治療法です。
抗がん剤は、細胞のDNAなどに作用することで、細胞の分裂・増殖を妨げる薬剤です。がん細胞はさかんに分裂・増殖するため、抗がん剤の効果が発揮されやすく、がん細胞の分裂・増殖が抑えられます。
肺がんの化学療法で用いられる薬剤には、プラチナ製剤、代謝拮抗薬、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管阻害薬などがあり、プラチナ製剤を中心に、ほかの抗がん剤と組み合わせて使用することが多いです1)

プラチナ製剤:

白金を含む薬剤で、DNAに結合し、DNAが分裂する過程を妨げて、がん細胞の分裂・増殖を抑えます。

代謝拮抗薬:

DNA合成の材料となる物質に特異的に働きます。その結果、DNAの合成を阻害して、がん細胞の増殖を抑える薬です。

トポイソメラーゼ阻害薬:

DNAの合成に必要な「トポイソメラーゼ」という酵素の働きを妨げることで、がん細胞の分裂・増殖を抑えます。

微小管阻害薬:

がん細胞の分裂に必要な「微小管」の動きをとめることで、がん細胞が分裂するのを妨げます。微小管阻害薬には、ビンカアルカロイド系薬とタキサン系薬があります。

抗がん剤の効果には個人差があります。また、最初のうちはよく効いていても、同じ薬を続けていると、効き目が弱くなることもあります。そのため、まず効果が最も高いとされている処方で治療を開始して、その効果が弱くなった場合や、一旦はがんを抑えられても再発した場合には別の処方に変更します。

1)日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版,金原出版,p.90

分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬

遺伝子変異検査

がんの発生には遺伝子の変異(異常)がかかわっており、それぞれのがんに特有な遺伝子変異が存在します。肺がんでは、「EGFR (イージーエフアール)遺伝子変異」、「ALK(アルク)融合遺伝子」、「ROS1 (ロスワン)融合遺伝子」、「BRAF(ビーラフ)遺伝子変異」などが知られており、これらの遺伝子変異はがん細胞の増殖を促しています。こうした遺伝子変異によってつくられるタンパク質など特定の分子を標的として、がん細胞の増殖を抑える薬剤を「分子標的治療薬」といいます。そこで、気管支鏡検査などで採取した組織や、手術で切除した組織を用いて、遺伝子変異の有無を調べます。しかし、がんにはさまざまなタイプがあり、すべてのがん患者さんで、がん細胞の増殖を促す遺伝子変異が認められるわけではありません。

分子標的治療薬

肺がんに対する分子標的薬には、がん細胞の増殖を促している特定の分子を標的とした薬と、がん細胞に酸素や栄養を供給する血管を作らせる分子を標的とした血管新生阻害薬があります。
EGFR遺伝子変異が認められた場合は「EGFRチロシンキローゼ阻害剤」、ALK融合遺伝子が認められた場合は「ALKチロシンキナーゼ阻害剤(ALK阻害剤)」、ROS1融合遺伝子が認められた場合は「ROS1チロシンキナーゼ阻害剤(ROS1阻害剤)」、を使うことができます。これらの薬剤は、がんの増殖を促す分子の働きを妨げることで、がん細胞の増殖を抑えます。血管新生阻害薬は、がんの周囲に新たな血管を作らせることを妨げ、がん細胞への酸素や栄養素の供給を阻むことで、がんの増殖を抑えます。

免疫チェックポイント阻害薬

私たちの体には、ウイルスなど「自分でないもの」を攻撃するシステム(免疫機能)が備わっています。しかし、がん細胞は免疫機能にブレーキをかけることで攻撃から逃れて、増殖します。「免疫チェックポイント阻害薬」は、がん細胞が免疫機能にブレーキをかけている部分(免疫チェックポイント)に作用してブレーキがかからないようにする薬剤で、患者さんが本来もっている免疫力でがん細胞を攻撃します。

副作用対策

副作用に上手に対処するために

肺がんの薬物療法に用いられる薬剤は、がん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を及ぼすことがあり、そのために吐き気や倦怠感などの症状が出ることがあります。薬物療法を計画通りに続けて、期待される効果を十分に発揮させるためには、副作用による症状をできるだけ予防し、症状があらわれても軽くすむように上手に対処することが大切です。がんそのものによる症状や、治療による副作用症状を予防したり、軽くしたりする治療を「支持療法」といいます。
肺がんの薬物療法でみられる副作用には、吐き気や皮膚障害など自覚できる症状と、骨髄抑制など初期には自覚しにくいものがあります。吐き気や嘔吐などの症状はあらかじめ薬を投与することで、症状を出にくくしたり、軽くしたりすることができます。一方、骨髄抑制による白血球、赤血球、血小板などの減少が続くと、発熱、貧血、出血などの症状があらわれます。早めに気づくためには定期的に検査を行うことが大切です。また、薬剤ごとに特徴的な副作用があり、これをあらかじめ知ることで、適切に対処することができます。
特に現在は、肺がんの治療では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬も使われます。それらの副作用は、作用のしかたによってさまざまな副作用があらわれます。
その中で、例えば下記のようなものが挙げられます。

  • 皮膚への影響:発疹、手足の皮膚炎、皮膚の乾燥、爪や爪の周囲の変化など
  • 呼吸器への影響:咳がとまらない、息切れがする、呼吸が苦しいなど
  • 消化器への影響:吐き気、嘔吐、下痢など

副作用には個人差があり、症状の程度やあらわれる時期なども人それぞれです。しかし、予想される副作用をあらかじめ知っておけば、日常生活で注意したり、工夫したりすることで、症状を抑えられることもあります。例えば、にきびのような吹き出物は、治療開始後1~2週間で、肌の乾燥は、治療開始後4~5週間で、爪周りの炎症は、治療開始後6~7週間であらわれやすくなります。

*山本 有紀 ほか. 臨床医薬, 32(12), 941-949, 2016

分からないことや不安なことがあれば、遠慮せずに担当医や薬剤師、看護師に相談してください。

抗がん剤の作用のしかた
図:抗がん剤の作用のしかた

抗がん剤による代表的な副作用の発現しやすい時期

副作用がいつ、どのようにあらわれるかは、薬剤の種類や投与方法、患者さんによって異なります。しかし、副作用の種類によっては起こりやすい時期をある程度予想できるものもあります。
下のは、抗がん剤による代表的な副作用が発現しやすい時期を示しています。ひとつの目安として参考にしてください。
現在受けている治療やこれから受ける予定の治療でどのような副作用が起こりやすいかなど、詳しいことは主治医や薬剤師に相談してください。また、副作用が起こったときの対処法や日常生活で気をつけることなどについては、主治医や看護師に相談してください。

抗がん剤による代表的な副作用が発現しやすい時期
図:抗がん剤による代表的な副作用が発現しやすい時期

国立がん研究センターがん情報サービス「化学療法全般について」

監修者略歴

順天堂大学大学院 医学研究科
呼吸器内科学 助教
宿谷 威仁(しゅくや たけひと)先生

  • 2002年 3月山梨医科大学医学部医学科卒業(現 山梨大学)
  • 2002年 5月国立国際医療センター
    内科研修医、呼吸器科レジデント
  • 2006年 4月順天堂大学 呼吸器内科 専攻生
  • 2007年 4月静岡がんセンター
    呼吸器内科 がん薬物療法専攻修練医
  • 2010年 9月静岡がんセンター
    呼吸器内科 副医長(併任)
  • 2012年 3月順天堂大学大学院医学研究科
    博士課程修了
  • 2013年 1月順天堂大学 呼吸器内科 助教
  • 2015年 5月オハイオ州立大学 腫瘍内科 博士研究員
  • 2019年 2月順天堂大学 呼吸器内科 助教
  • 【資格】
  • 日本内科学会 専門医
  • 日本呼吸器学会 専門医
  • 日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医
  • 【所属学会】
  • 日本内科学会
  • 日本呼吸器学会
  • 日本臨床腫瘍学会
  • IASLC(International Association for the Study of Lung Cancer)
  • ASCO(American Society of Clinical Oncology)
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