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ご存じですか?
臨床試験のしくみ

昭和大学藤が丘病院 腫瘍内科・緩和医療科 教授
市川 度先生

 臨床試験とは、将来に向けてより優れた医療を生み出すため、患者さんの協力のもとに行われる研究のことです。私たちの生活とは一見関係がないようにも思えますが、現在当たり前に受けている医療も、過去の臨床試験の積み重ねの上に成り立っています。
 お話を伺うのは、消化器外科医としての豊富なキャリアを経て、さらに薬物療法を探求するために腫瘍内科医に転じた市川度先生です。腫瘍内科医としての視点から抗がん剤の薬物動態(患者さんの体内で薬がどのように働くのか)に注視し、有効性と安全性を考慮した治療を目指して、数々の臨床試験に取り組まれています。 【取材】2020年8月 昭和大学藤が丘病院

市川 度 先生
第2回臨床試験(治験)はどのように
実施されるのでしょうか?
公開:2021年12月22日
更新:2024年3月

 臨床試験に対する誤解から、「実験台にされてしまうの?」と心配される方も少なくありません。第2回では、患者さんの権利を守り、安全かつ不利益にならないように臨床試験の中でも治験を実施するための仕組みについて伺います。

臨床試験(治験)に参加するにあたって、不利益になることはありませんか?

 新薬や新たな治療の開発の最終段階に行われる第Ⅲ相試験*と呼ばれる治験は、通常、現時点での標準治療と新しい治療を比較するものです。例えば2つの治療を比較する場合は、現時点での標準治療を対照とし、新しい治療が標準治療よりも有効性が高いかどうか、あるいは、安全性が高いかどうかを検証するというものです。
 治験と聞いて、患者さんの中にはとっさに「実験台」「モルモット」といったイメージを連想される方もいらっしゃると思いますが、治験は倫理性と安全性をしっかり考慮した上で実施されるもので、患者さんの権利は守られるようになっています。

*通常、治験は第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験と進み、第Ⅲ相試験では、それ以前の開発段階の試験に比べて、多数の患者さんを対象に、
効果と安全性を確認します。

図1 新薬開発のプロセス

治験を行うにあたって、医療機関はどのように実施を決めるのでしょうか?

 治験を実施する医療機関には通常IRB(倫理審査委員会)が設置されており、そこで実施計画書の倫理性や安全性に問題ないかどうかについて審議されています。IRBは、医師、看護師、薬剤師などの医学の専門家、医学の専門家ではない人、医療機関と利害関係のない人を含む5人以上で構成されており、さまざまな立場の方が参加し、幅広い見地から客観的な審議が行われます。特に患者さんへの説明同意文書の内容については大変詳しく審議するのですが、文章の「てにをは」に至るまで細かく検討して、その上で問題がなければ治験を行うことになります。

治験にはどのような方が携わっているのでしょうか?

 治験を行うにあたっては、医師はもちろん、看護師、薬剤師にも加わってもらいます。特に大切なのがCRC*(臨床研究コーディネーター)です(図2)。 CRCは、患者さんの状態や、検査や投与のスケジュールなどを細かく調整する役割を担っています。

*看護師、薬剤師、検査技師といった職種の中で、臨床試験について専門知識を得た資格者

図2治験を支える人たち

参考:国立がん研究センターがん情報サービス

患者さんが治験に参加するにあたって、インフォームド・コンセントは
どのような手順で得られているのでしょうか?

市川 度 先生

 その治験の参加条件に合った患者さんに対し、多くの場合、CRCの立ち会いのもとに医師から説明します。まずは患者さんの病状そのものと、現時点での標準治療について、そして、この治験の目的についてのお話をします。さらに患者さんの理解を深めるために、CRCから補足的な説明をしてもらうこともあります。
 今は、がんの告知も一般的に行われています。治験もあくまでご本人の意思で参加いただくもので、ヘルシンキ宣言*においても、患者さんの治験への参加は自発的なものでなければならないとされています。もし、医師が治験を紹介して、患者さんが参加したくないという意思表示をしたとしても、その患者さんは何ら不利益を被るものではありません。

*臨床研究の世界的な倫理指針。被験者の権利・利益を優先すること、被験者の自主的な同意を得ることなどが示されている。

治験への参加の意思は、すぐに回答しなくてはいけませんか?

 その場で回答する必要はありません。あせって決めることのないよう、私はよく、「明日の朝に食べる納豆を買うのではないのですから、よく考えてきてくださいね。十分時間をかけて考えましょう」といった声かけをするようにしています。家へ帰った後、ご家族とゆっくり相談していただいて構いません。

 治験の実施について、さまざまな立場の方が携わっていることがわかりました。しかし、自分の治療のことですから、じっくり考えて、納得した上で参加するかしないかを決めればよいのですね。

臨床試験の実施情報はどこで知ることができますか?

 国立がん研究センターではインターネット上で臨床試験情報を公開しており、一般の方も検索できますので、参考にしてください(下記、臨床試験を探したい一般の方向けのデータベースを参照)。今まさに行われている臨床試験については、主治医の先生がご存じだと思います。臨床試験では参加できる条件が決まっていますので、まずは主治医の先生に相談してみてください。

● 臨床試験を探したい一般の方向けデータベース

 また、一般の方はがん情報サービスの「がんの臨床試験を探す」というサイトで、がんの領域、都道府県、年齢を選んで、「検索する」ボタンをクリックすると、対象となる臨床試験の一覧がご覧いただけます。
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/search/search1-1.html

 第2回では、臨床試験(治験)とは患者さんに不利益がないような仕組みになっているということがわかりました。第3回では、臨床試験(治験)の結果が今後どのように活かされるのかについて、胃がん診療の将来の展望を含めてお話を伺います。

※本テーマは、臨床試験のしくみについて一般の方にわかりやすく解説するためのもので、臨床試験の参加を推奨するものではありません。
参加を希望されたい場合には主治医の先生にご相談ください。

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