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ご存じですか?臨床試験のしくみ

静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 部長
高橋 利明先生

 「臨床試験」とは、薬や医療機器などについて、その効果や安全性を評価するため、患者さんの理解と協力のもとに行われる研究です。しかし、それが何を目的としているのか、どのような過程を経て行われるのかについては、あまり知られていないかもしれません。
 解説していただくのは、肺がん薬物治療の臨床試験について豊富な経験をお持ちの高橋利明先生です。臨床試験の意義や目的、実施の流れ、そして、試験への参加にあたって理解しておきたいことなど、臨床試験に関する疑問についてお答えいただきます。 【取材】2020年11月 みしまプラザホテル

高橋利明 先生
第2回臨床試験(治験)はどのように
実施されるのでしょうか?
公開:2021年10月22日
更新:2023年1月

 第2回では、臨床試験のなかでも治験にはどのような人が関わって進められているのか、そして、試験参加へのインフォームド・コンセントにあたって理解しておきたいことについてお話を伺います。

臨床試験(治験)はどのような人が関わって進められていくのでしょうか?

 治験には、患者さんの見えるところと見えないところの両面から、さまざまなスタッフが関わっています。肺がん患者さんに対する抗がん剤の治験を例にお話しします。
 最初に、治験の概略について責任医師あるいは主治医から患者さんへの説明が行われます。医師が説明しなければならないこととして、治験薬の特徴(薬の効き方や副作用の現れ方)や、治験の目的や第何相の試験なのか、投与方法や投与期間などの具体的な治験の方法といった内容があります。
 続いて、医師が話した以外の補足的な説明については、CRC(臨床試験コーディネーター)の出番となります。治験のためにはどのような検査や治療が必要になるのかといったことや、治験に加わらなかった場合の治療法など、参加する患者さんには必ず説明して理解を得ておいていただかなければならないことについてお話しします。ここまでの説明を受け、さらに患者さんから参加への同意(インフォームド・コンセント)を得た後でも、検査や投薬のスケジュール、投薬量の確認など、CRCのサポートなしには進んで行きません。   

     
治験を支える人たち

参考:国立がん研究センターがん情報サービス

 CRCのほかにも、治験薬の管理には薬剤師が、画像検査には放射線科の技師が関わります。また、外来化学療法部門の看護師は点滴や内服のスケジュール管理を、病棟の看護師は副作用の確認など、多くの医療スタッフが携わっています。
 治験の目的というのは、科学的に正しいデータを得ることですが、それと同時に参加する患者さんにとって決して不利益が出てはいけませんから、決められたスケジュールが保たれるように、あるいは強い副作用が出ないように、しっかりと観察していかなければなりません。それは、決して医師だけでできることではありません。最終責任者は医師ではありますが、各職種が協働し、1つのチームとして行っていきます。

治験参加へのインフォームド・コンセントにあたって、
患者さんに特に理解していただきたいことは?

岡田守人 先生

 治験の説明同意文書の内容はかなり長く、難しいですが、隅から隅まで読んでくださいとお願いしています。そのなかで特に確認しておいていただきたいのが、ご自身がどういう病気で、どうしてこの治験への参加説明を受けているのかということです。つまり、もしこの治験に加わらない場合には、自分がどのような治療を受けることになるのかについて、把握しておいていただきたいということです。それが第相試験であれば、参加しない場合の治療は標準治療になるからです。
 2つ目に大切なのは、この治療を行った時にどのような効果が期待でき、どのような副作用の可能性があるかということです。そして3つ目は、検査内容や通院スケジュールが日常診療で治療する場合とは変わってくるという負担についてです。
 治験は、新薬が標準治療と比べて本当に優れているかどうかがわかっていないからこそ行われるわけですから、参加にあたっては、自分にとってのメリットとデメリットについて十分に理解していただきたいと思います。主治医の先生が勧めたからといって参加するというのは、するべきことではありません。むしろ患者さんが断わりたくなるくらい詳細に説明する医師やCRCのほうが、信頼に足ると私は思います。

治験の結果は、どのように活かされるのでしょうか?

 新たな作用機序で働く分子標的薬などの治験では、第相、第相試験の段階でも劇的に効果があるということがわかり、標準治療として位置づけられることもあります。例えば、既存の抗がん剤で3割程度の奏効率(有効性)であったのが、7割の奏効率が現れるようなこともあるからです。しかし、多くの治験では、参加する患者さん自身にそれほど大きなメリットはないかもしれません。新しい治療に期待して参加しても、結果として優れている場合もあれば、劣っている場合もあります。治験には、もちろん参加する患者さんが新しい治療に触れられるという側面もあるのですが、あくまで将来の患者さんのために科学的データを集め、新しい標準治療の確立のために協力しているということを理解していただきたいです。

 治験とは、必ずしも劇的な効果を期待するものではなく、将来の標準治療を確立するための研究であるということを忘れてはいけませんね。

コラム臨床試験について調べるには

国内の臨床試験の実施状況はインターネット上で公開されています。臨床試験を探したい一般の方向けのデータベースもあります。

臨床試験を探したい一般の方向けデータベース
また、一般の方はがん情報サービスの「がんの臨床試験を探す」というサイトで、がんの領域、都道府県、年齢を選んで、「検索する」ボタンをクリックすると、対象となる臨床試験の一覧がご覧いただけます。
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/search/search1-1.html

 第3回では、臨床試験(治験)に関して患者さんからよく聞かれる疑問について伺います。

本テーマは、臨床試験のしくみについて一般の方にわかりやすく解説するためのもので、臨床試験への参加を推奨するものではありません。
参加を希望されたい場合には主治医の先生にご相談ください。

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