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肺がん治療を正しく
理解していただくために

京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学 教授
髙山 浩一先生

 肺がんの治療は外科治療(手術)、放射線治療、薬物治療に大別され、病気の進行具合や患者さんの状況に応じて適した治療が行われます。ご自身やご家族が肺がんと診断されたら、あるいは肺がんかもしれないと思ったら、どんな治療があるのかといった情報を集めることでしょう。肺がんに限らず、がんに関する情報はWebや書籍などさまざまメディアから簡単に入手できる時代となりました。しかし、患者さんが自ら調べるにあたって、本当に正しい情報にたどり着けているかといえば、必ずしもそうではないかもしれません。
 そこで今回は、髙山先生に、患者さんは肺がんについての正しい情報をどのように入手すればよいのか、また医療者はどのような情報発信を心がければよいのかについて伺いました。髙山先生は、患者さんやご家族を対象とした「肺がんについて考える会」の定期開催をはじめ、新聞紙上でのコラム執筆、肺がん診療啓発マンガの制作など、わかりやすく正しい情報の発信に力を注いで来られており、さまざまなご経験をもとにわかりやすくご解説いただきました。 【取材】2020年11月 京都ガーデンパレスホテル

髙山浩一 先生
第1回「肺がんについて考える会」で
発信してきたこと
公開日:2021年12月24日

 髙山先生は2006年から週に1回、患者さんに集まってもらい肺がんに関する基本的な知識をお話しする取り組みを始められました。それが、「肺がんについて考える会」です。髙山先生はこの取り組みを約10年にわたって300回以上も続け、2015年に現職に就かれてからも継続されています

*新型コロナウイルス感染拡大防止のため、現在、院内での実施は休止中

「肺がんについて考える会」を始められたきっかけは?

 肺がん患者さんの平均年齢は70歳を超えています1)。一方で、大学病院の医師は20~30歳代が少なくありません。そうなると、年齢差だけでもコミュニケーションエラーが起きやすい状況なのに、患者さんも医師に遠慮してなかなか言えないことがあると、誤解が解けず不満がたまってしまいます。私は病棟の責任者でもあったので、そうした患者さんの誤解をとき、不満に耳をかたむけるため、私自身が対応することがありました。

髙山浩一 先生

 改めて患者さんのお話を聞いてみると、主治医の説明は医学的には間違ってはいなくても、患者さんは理解が不十分なまま勘違いされているということがよくありました。主治医もまだ経験が浅く伝え方が十分ではないのですが、患者さん側も専門用語などがわかりにくいことを言い出しにくいものです。そこで、患者さんにも基本的な知識をもっていただいたほうが主治医の話をより理解しやすいのではないかと考え、週1回夕食後の時間に、入院患者さんに集まってもらい話をすることにしたのです。もう1つの目的としては、主治医とのコミュニケーションがうまくいっていない時に、この会をセカンドオピニオン**的に使ってもらいたいという狙いもありました。
 やがてその評判が広まったのか、患者さんのご家族や他の病院の患者さんも集まるようになりました。この会は約10年続き、一番長く参加されていた方は3年近く通われていました。奥様が肺がんで、そのご主人が会に参加されていたのですが、今でも時々連絡があります。

1):公益財団法人 がん研究振興財団:がんの統計 ’19,p52
**:現在の担当医とは別に、他の医療機関の医師に聞く意見(第2の意見)のこと。セカンドオピニオンは、
今後も現在の担当医のもとで治療を受けることを前提とするもので、転院を目的とするものではありません。

 「肺がんについて考える会」は、患者さん自身にもがんについての理解を深めてもらい、主治医と患者さんとのコミュニケーションエラーをなくすために始まったものだったのですね。

現在はどのような形で開催されているのですか?

 外来診察室を会場にして自由参加の形にしており、毎回10数名の方が集まります。誰にでも共通する最大公約数的な話で終わってしまうと、患者さんが抱える状況はさまざまですから、かゆい所に手が届かないということがあります。ですから、現在行っている会では、前半ではトピック的な話題で、後半は質疑応答の時間にしています。当日の話題については予めお知らせしているので、時には肺がん以外のがん患者さんも共通する話題の回に参加されることがあります。質疑応答で質問されるのは毎回4、5名程度の方ですが、時間を超過する場合もあります。本来ならば毎週行いたいところですが、さまざまな都合もあり、隔週開催としています。
 私は市民公開講座などを依頼されることもあるのですが、年1回の開催で、200~300人の参加者ということが多く、最大公約数的な話にならざるを得ません。一部の方にとっては役に立っても、後でアンケートをみると、「自分が聞きたい内容とは違った」という方が必ずおられるものです。患者さんが今まさに困っていることに対応できるタイミングを考えると、がんの場合は進行する病気でもありますから、「肺がんについて考える会」については、隔週開催が最低限の頻度ではないかと考えています。

 がん患者さんに対しては、治療を理解するための基本的な知識を伝えることはもちろんですが、必要な情報をタイムリーに届けるという視点も大切ということですね。

患者さんはどのようなテーマに関心があるのでしょうか?

 毎回、患者さんが聞きたいことについてアンケートを配り、そこで挙がってくるトピックは後日必ず取り上げています。話す立場としてはどの話題も大切だと思っているのですが、続けていくうちに患者さんの集まりが良いテーマ、良くないテーマも見えてきます。例えば、サプリメントや健康食品といったテーマの時は、参加者が多く集まります。しかし、私の話は「がんに効くというエビデンス(医学的根拠)は乏しいですよ」と、がっかりさせてしまうのですけどね。サプリメントのようなものは、周囲の方が良かれと思って勧めてくることもありますが、納得できない時には飲まなくてもよいと思いますし、断りにくい時は、「医師に止められているということにしていいですよ」と言っています。
 最近では、ゲノム医療や免疫療法についての関心が高まっています。一方で、がん性疼痛を抑える医療用麻薬について、今は良い薬が出ていることを伝えたいと思うのですが、そうした回は集まりが良くありません。医療用麻薬は中毒になるのではないかといった不安について誤解を払拭したいのですが、なかなか難しいようです。

 がんに関して真偽不明の情報について不安を覚える患者さんは多いと思います。その情報について、先生に直接話して確かめられるのならありがたいですね。

「肺がんについて考える会」は、新型コロナウイルス対策のため開催を一時休止されています。
今後はどのような形での実施を考えていらっしゃいますか?

 実はオンライン開催も考えたのですが、高齢の患者さんにはハードルが高いこともあり、まだ実施に至っていません。「肺がんについて考える会」には、肺がんの患者さんだけではなく、がん治療に関心があるという方も参加されていました。オンライン開催にすると、本当に話を聞きたい患者さんが無理なく参加できるのか、オンラインでは質問しにくいのではないかという心配もあります。一方、オンライン開催にも参加できるようなアクティブな患者さんは、自分自身で積極的に疑問などを解決していける人でもあると思います。
 ただ、現在の状況がこれ以上続くようならば、新しいやり方を考えていかなければなりません。オンライン開催は場所の制約もなく、どんなに遠くの患者さんともつながることができますから、うまく運用すれば十分使えるツールになると思います。

 講演会などのオンライン開催はだいぶ浸透してきたものの、高齢の方にはまだなじみが少ないかもしれません。対面で話す以上に良い手段はないかと思いますが、今後のためにもさまざまな手段を考えていく必要がありそうですね。

 第2回は、マンガ制作や新聞連載など、メディアを通じた髙山先生の情報発信のご経験について伺います。

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