「腫瘍内科」を標榜する診療科は近年増えており、総合病院などでその表示を目にすることも多くなりました。しかし、肺がんならば呼吸器内科・外科、大腸がんならば消化器内科・外科で治療を受けるということは想像できても、どんな時に「腫瘍内科」にお世話になるのかについては、あまり知られていないかもしれません。「腫瘍内科」そして「腫瘍内科医」の役割とは、一体どのようなものなのでしょうか?
中川先生は、2002年に日本で初めて開設された「腫瘍内科」の特任教授を務めておられます。内科医として長年にわたってがんの薬物療法に取り組まれ、腫瘍内科診療の発展に尽力されている中川先生にお話を伺います。
【取材】2021年3月17日(水) ホテル アゴーラ リージェンシー 大阪堺
第2回では、腫瘍内科医の専門性と、がん患者さんの初期診断から終末期に至る経過の中で、腫瘍内科医がどのように患者さんと関わるのかについて伺います。
腫瘍内科は臓器横断的診療科として、さまざまな専門分野を持つ医師で構成されています。目指すキャリアや背景も、オンコロジスト(がん薬物治療の専門医)、総合内科、緩和ケア、基礎研究者など多彩です。がん薬物療法専門医の資格を有している人が多く、その他の所有資格としては内科指導医、緩和ケア指導医、総合内科専門医、呼吸器専門医、消化器病専門医、気管支鏡専門医、消化器内視鏡専門医などが挙げられます。
現在、新しく腫瘍内科を目指す医師は、初めから臓器の壁を越えて同時期にさまざまながん種について学ぶことができます。それまで臓器別に特化した勉強をしてきた医師でも、腫瘍内科に来ればあらゆるがん種の患者さんを受け持って経験を積みますから、その意味では臓器別の壁は取り除かれていて、若い医師たちの臓器横断的な視野ははじめからかなり開けていると思います。
あらゆるがん種の診断や治療計画、薬物治療、そして緩和ケアまで携わる腫瘍内科。臓器横断的な視野を持ちながら、それぞれの専門性を生かして診療されているのですね。
化学療法で通院治療されている患者さんの中には、副作用により予定外受診や救急搬送される方もおり、その対応も腫瘍内科医の役目です。
また、がんの経過中には急速に全身状態の悪化をきたして緊急な治療を必要とする場合があり、これを総称してオンコロジー・エマージェンシーと呼んでいます。実際に救急搬送されることもあり、その対応も腫瘍内科医が行います。オンコロジー・エマージェンシーには内科的治療で対処できるもの(図)と、外科的・放射線治療が必要なものがあり、後者についてはそれぞれ迅速に判断し外科医、放射線科医と協力しながら的確な治療を行います。
患者さんが初めてがんと診断されてから、どんな時でも切れ目ないケアを提供するのが腫瘍内科ということですね。
緩和ケアについては、なるべく早くから取りかかることが大切だと思います。当然のことですが、病気が進行して治癒する可能性が少なくなってきたとしても、私たち医療従事者は患者さんと同じように治癒する可能性を切に望んでいます。その一方で、万が一の場合の備えもしておかなくてはなりません。そうしたことは元気な時のほうが話しやすいもので、病気が本当に深刻な状態になってしまってからでは難しくなってしまいます。
近年、国としても早期からの緩和ケアを提唱していますが、それと同時に普及が進んでいるのがACP(アドバンス・ケア・プランニング)という概念です。ACPとは、自分がどのように生きたいのか、どのような最期を迎えたいのかという希望について、家族や医療者と予め話し合って共有しておくという取り組みです。
医療従事者が患者さんとこうしたお話を進めていくためには、患者さん一人ひとりの価値観、家族関係、社会的な立場、あるいは就労を含めた経済的な問題に至るまで把握する必要があります。その意味ではがん患者さんにとって腫瘍内科医はファミリー・ドクターのような立場とも言えますし、そのためのコミュニケーションをとれる腫瘍内科医を育成していきたいと思っています。
患者さんやご家族の思いを聞き取り、そのケアに反映させていくことは、医師に限らずどの職種にとっても経験が必要となるのかもしれませんね。
第3回では、薬物療法が目覚ましい発展を遂げる中で、腫瘍内科の将来への展望についてお話を伺います。