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患者さんに寄り添い
適切な治療を提供するために
~腫瘍内科医の役割とは

近畿大学医学部内科学教室腫瘍内科部門 主任教授
中川 和彦先生

 「腫瘍内科」を標榜する診療科は近年増えており、総合病院などでその表示を目にすることも多くなりました。しかし、肺がんならば呼吸器内科・外科、大腸がんならば消化器内科・外科で治療を受けるということは想像できても、どんな時に「腫瘍内科」にお世話になるのかについては、あまり知られていないかもしれません。「腫瘍内科」そして「腫瘍内科医」の役割とは、一体どのようなものなのでしょうか? 
 中川先生は、2002年に日本で初めて開設された「腫瘍内科」の主任教授を務めておられます。内科医として長年にわたってがんの薬物療法に取り組まれ、腫瘍内科診療の発展に尽力されている中川先生にお話を伺います。 【取材】2021年3月17日(水) ホテル アゴーラ リージェンシー 大阪堺

中川 和彦 先生
第3回今後、腫瘍内科が目指すところ
公開日:2022年4月6日

 薬物治療の進歩とともに、がんと共に生きることが当たり前となった今、患者さんと腫瘍内科の関わりは一層強いものになりそうです。第3回では腫瘍内科の将来の展望をテーマにお話を伺います。

腫瘍内科医に求める資質とは?

中川 和彦 先生

 今すでに確立されている治療法も、大量の臨床試験のデータや論文をもとにまとめられたものです。実際には一人ひとり背景の異なる患者さんについて、どこまで患者さんの考えを受け止められるか、包容力や柔軟性を持って対応できるかといったことは、それらの情報をどれだけ見ているのかによります。独りよがりの考えではなくさまざまな論文を読んだ上で自分の研究をまとめ、学会発表や論文化することで、患者さんに対してわかりやすく説明し信頼を得る力も培われます。これらの経験は一見、患者さんにとっては興味のない事柄かもしれませんが、いずれ患者さんのために還元されるものだと思います。

 薬物治療がめざましい進歩を遂げた今、肺がん患者さんの予後は年々向上しています。中川先生は学内のACP(アドバンス・ケア・プランニング)委員会の委員長も務め、ACPや早期緩和ケアの普及にも力を入れていらっしゃいます。

ACPや早期緩和ケアを普及して行くにあたって、必要なことはなんでしょうか?

 日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代です。医療従事者だけでなく、患者さんやご家族、そしてまだ病気になっていない一般の人々も含めて、「死」ともっと向き合い、受け入れる社会になることが求められていると思います。「死」をタブー視するのではなく、成熟した死生観を持つことが社会全体の課題ではないでしょうか。生と死の問題に向き合うことについて、医療従事者の間でもどのように受け止めたらいいのか悩んでいる方も多いことを感じています。しかし、患者さんと家族を支えるのは私たち医療従事者ですから、私たちが一歩踏み出す勇気を持つことが必要です。
 自分がどのような生き方をしたいのか、どのような人生観を持っているのか、何を実現したいと思っているのか、そういったものの延長線上に死というものがあります。どういう生き方をしたいかと考えることは、同時に、どういう死に方をしたいのかということでもあると思います。本来ならば、病気になったからそういった準備が必要ということではなく、その前の段階、つまり本当に元気な時にこそ考えておくべきであると思います。

ACPの概念が広がりつつある今、求められることはなんでしょうか?

厚生労働省:「人生会議してみませんか」

 最近では、国としての啓発活動の成果もあり、ACPはがんに限らずどの病気であっても必要であるという認識が一般の方にも浸透してきていることを感じています。医療従事者や患者さん、行政も含めて社会全体が、そうしたことを実践していく段階に入っていると思います。
 医療現場で実践するにあたっては、患者さんの意思決定支援のための人手が必要です。そのための仕組みを構築して人員配置できるようにすることが、今、求められていることだと思います。患者さんが元気な時にACPについてフランクに話せるような関係性が重要で、それは第一に医師の役目だとは思いますが、看護師さんやさまざまなスタッフもそこに関わり、ご家族も一緒になって、自然な形で準備していくことができるのが理想的です。

肺がん患者さんへのメッセージをお願いします。

 患者さんが自分の生きたい人生を医療従事者と共に歩んでいくためには、医療従事者側が一歩踏み出す勇気が大切です。しかし我々が歩み寄るだけではうまくいきませんから、そこには患者さんの勇気も必要です。両者がお互い勇気を出して、歩み寄って、足りないところを補い合いながらコミュニケーションをとっていく必要があると思います。そのようなポジティブな人間関係を医療従事者と築きながら、ご自身にとって最も適切な選択をしていっていただきたいです。

 腫瘍内科とは、あらゆるがん種・あらゆるステージの患者さんを診察し、がん治療の全体的なコーディネートと薬物療法を担い、終末期に至るまで携わっていく診療科であることがわかりました。
 がん治療を計画通り進めるにあたって、患者さんと腫瘍内科医の先生とは長いお付き合いになりそうです。お互いに勇気を持って歩み寄り、信頼関係を築いて治療に取り組んでいくことが大切ですね。
 中川先生、ありがとうございました。

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