expert icon

知っておきたい進行肺がん
(主にⅣ期非小細胞肺がん)の治療

九州大学大学院医学研究院 呼吸器内科学分野 教授
岡本 勇先生

 肺がんは、部位別がんにおける死亡数では世界的にみても第1位であり、依然として治療の難しい病気と言えます。その早期発見が難しいゆえに、診断された時にはすでに外科手術ができないほど進行していることが珍しくないからです。
 しかしながら、進行肺がんの治療成績は薬物療法の進歩によって着実に向上しています。近年では従来の抗がん剤に加え、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせによって、多くの患者さんが治療を続けながら社会生活を送っています。
 肺がんの早期発見の重要性と検査の進め方、そして、もし進行肺がんと診断された場合の治療や注意点について、がん薬物療法専門医である岡本先生にお話を伺います。 【取材】2021年1月20日(水)(九州大学病院にてリモート取材)

岡本 勇 先生
第3回進行肺がん(Ⅳ期非小細胞肺がん)
患者さんの治療②
公開:2022年2月17日
更新:2023年4月

 第2回では、進行肺がんの治療は全身療法である薬物療法が基本となることについて伺いました。第3回では、治療を選択する際の考え方や、薬物療法を続ける際の注意点についてお話を伺います。

医師から勧められた治療について、患者さんはどのように判断したらよいのでしょうか?

 主治医からの治療の説明としては、例えば点滴だったらどのようなスケジュールで行い、どの程度の時間がかかるのかといったことと同時に、過去のデータに照らして、その治療によってどの程度の効果が期待できるのかといったお話をされると思います。
 進行肺がんの薬物療法について、その効果がどれほど期待できるのか、どのような副作用が出るのかということは、個人差が大きく実際にはやってみないと分からないという側面があります。医師はその患者さんにとって最も適した治療方法を考えるわけですが、「100%効きます」という治療はないというのが現状です。
 治療の決定については、その治療でどれくらいの効果が期待できるのかと、どのような副作用が予想されるか、その危険性について患者さんやご家族に説明して、同意を得た上で治療を開始するというプロセスを経ます。治療を受けられるかどうかに関しては、患者さんやご家族のそれぞれのお考えや人生観、価値観によって、自由に決断なさってよいと思います。重要なことは納得いくまで医師の説明をよく聞き、分からないことがあれば、ためらわず相談することです。

治療の説明の際には、家族も同席したほうがよいのでしょうか?

 患者さんにとっては、医師に対して自分からは聞きにくい、質問しづらいというような状況もあると思います。または、一度にいろいろな説明をされても全てを理解できないということもあるでしょう。ですから、ご本人だけではなくご家族と一緒に説明を聞くことは非常に大切だと思います。
 治療の選択は基本的にはご本人の判断ではありますが、説明の際にはなるべくご家族も同席され、その情報を共有して治療に臨まれることが大切です。
 そして一度説明を聞いたら、家に持ち帰ってご家族と相談してみてください。すると、分からなかったことや、もっと聞きたいということも出てくるでしょう。そうしたことをメモにとっておき、2度目以降の面談で確認してから判断されるとよいと思います。
 ただ、病気が進行して体の調子を崩してしまうと抗がん剤の治療はできなくなってしまいます。治療の選択は十分考えていただきたいことではありますが、その考える時間をどれほど取れるかについて予め医師と相談しておくことも必要です。

 がんの薬物療法では、期待される効果とその副作用、治療のスケジュールなど、たくさんの説明を聞かなくてはなりません。一人ですぐに判断しようとせず、家族と一緒に落ち着いて説明を聞くことが大切ですね。

進行肺がんの治療を続けていく上で、日常生活で注意することはありますか?

 進行肺がんについては治療選択肢が増えてきて、治療成績も向上していますが、ある一定の期間、例えば数ヵ月続ければそれで治療が終了するという病気ではありません。つまり、その病気と長い間付き合っていかなければならないということです。
 そこで治療の目的は病気になる前の元の生活とできるだけ同じような生活を送れるようにすることにあります。働いている方にはその仕事を続けていただきたいですし、趣味に時間を使っている方でしたら、その趣味が今まで通りにできることが目標です。病気が進んで体の調子が悪くなり、できていたことができなくなる…そうしたことがなるべく起こらないようにするというのが治療の目的です。
 現在の医療では、薬物療法は可能な限り外来通院で行うのが主流です。ご家庭での注意事項としては、どのような副作用が出るのか、特にどのような場合には病院に連絡しないといけないのかということについて、予め理解しておいてください。そのことに注意する以外は、安静にばかりしている必要はなく、おいしいものを食べて、動ける間は動いて、日常の活動を保っていきましょう。

患者さんへのメッセージをお願いします。

岡本 勇 先生

 進行肺がんの薬物療法は、遺伝子異常に応じた分子標的薬や、複数の免疫チェックポイント阻害剤、そして新しい作用機序の抗がん剤が開発されてきて、まさに日進月歩です。非常に難しい病気であることは事実ですが、昔と比べると患者さんの生存期間は驚くほど伸びています。
 進行肺がんと告知されると大きなショックを受けられると思いますが、治療しながら社会生活を送られている患者さんは大勢おられます。そのように希望のある前向きな気持ちと、楽観できないところもある厳しい病気であるという自覚の両方をお持ちになって、ご自分にとって最も納得できる治療を受けることが大切かと思います。
 日本は医療環境が整っており、肺がんを専門にする医師も意識が高く、世界の最前線の治療が受けられる環境にあります。説明がよく理解できて、信頼できる医師を見つけ、治療の相談を進めていってください。進行肺がんの治療の目的はQOL(Quality of Life:生活の質)を保って、今までと同じような生活ができるということを目指すものですから、皆さん一人ひとりがその目標を達成できるように治療を受けていただければと思います。

 岡本先生のお話からは、現在では進行肺がんであっても治療により自分らしい生活を送ることもできること、そして、そのためには信頼できる医師としっかり相談して治療に取り組んでいくことが大切であると分かりました。

 薬物療法の進歩により、進行肺がんの治療成績は年々向上しています。治療によってQOLを維持できるという希望と、厳しい病気であるという自覚の両方を持って、前向きに治療に取り組んでいただきたいと願います。
 岡本先生、本当にありがとうございました。

pagetop