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知っておきたい進行肺がん
(主にⅣ期非小細胞肺がん)の治療

九州大学大学院医学研究院 呼吸器内科学分野 教授
岡本 勇先生

 肺がんは、部位別がんにおける死亡数では世界的にみても第1位であり、依然として治療の難しい病気と言えます。その早期発見が難しいゆえに、診断された時にはすでに外科手術ができないほど進行していることが珍しくないからです。
 しかしながら、進行肺がんの治療成績は薬物療法の進歩によって着実に向上しています。近年では従来の抗がん剤に加え、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせによって、多くの患者さんが治療を続けながら社会生活を送っています。
 肺がんの早期発見の重要性と検査の進め方、そして、もし進行肺がんと診断された場合の治療や注意点について、がん薬物療法専門医である岡本先生にお話を伺います。 【取材】2021年1月20日(水)(九州大学病院にてリモート取材)

岡本 勇 先生
第1回肺がん治療の現状と課題
公開日:2022年2月17日

 第1回では、肺がん治療の現状と課題について、肺がんの疫学と検査の進め方を中心にお話を伺います。

岡本 勇 先生

日本における肺がんの患者数、死亡数は、どのように推移していますか?

 肺がん患者数の推移については全体として横ばいという状況ですが、女性はやや増加傾向であるということと、CT画像などの検査技術の発達により、今までたばこを全く吸ってこなかったような人でも肺がんが見つかるということが、最近の特徴です。
 肺がんによる死亡数は大きな課題となっており、日本だけでなく海外においても、部位別がんの死亡数で第1位です。日本での肺がんによる死亡者数は年間約7万5000人にも上り、1日にすると約200人の方が肺がんで命を失っているという計算になります。治療成績は年々向上しているとはいえ、予後の悪い、難しい病気の一つと言えるでしょう。

*:国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計:
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

図1全国 成人喫煙率
男性の成人喫煙率の推移

国民健康・栄養調査より国立がん研究センターにて作成

女性の成人喫煙率の推移

国民健康・栄養調査より国立がん研究センターにて作成

国立がん研究センターがん情報サービス

肺がんはなぜ治療の難しい病気なのでしょうか?

 肺がんは、早期に発見して外科手術ができれば治る可能性が高い病気なのですが、早期発見が難しいとされています。それは、肺がんのみにみられる特有な症状がないということに起因しています。咳、痰、血痰、胸痛、息切れといった呼吸器症状は、肺がんに限らず他の呼吸器疾患でも出てくるものであって、これらの症状が出たから肺がんである、とは言えないからです。
 また、毎年必ず検診で胸部レントゲン検査を受けている方でも、ある年に胸に影が見つかり、精密検査をするとすでに進行肺がんであるといった場合もないわけではありません。このように、肺がんはその特有の症状がないために、早期発見が難しいと言えます。

図22019年における死亡数が多いがんの部位

国立がん研究センターがん情報サービス

図3肺がんの年齢階級別死亡率の推移(1965、1990、2019年)

国立がん研究センターがん情報サービス:がんの統計2021 年齢階級別死亡率推移p46

 肺がんは早期発見が難しい病気なのですね。それでもできる限り早期発見のチャンスを逃さないために、自治体や職場の定期検診は必ず受けたいものです。

肺がんを診断するための検査はどのように行われるのでしょうか?

 例えば、咳が長く続く、血痰が出るといった症状を患者さんが訴えた場合は、まずは胸部レントゲン検査を行います。そこで何らかの陰影を認める場合には、胸部CT検査に進みます。CT画像というのは体の断層写真を撮るもので、そこで影がはっきり映ってがんが疑われる場合は、さらに詳しい検査に進みます。
 最近ではがんの画像検査としてPET検査というものが普及しています。放射性同位元素を含んだブドウ糖の検査薬を注射して、1時間程度休んでいただいた後に全身を撮影すると、がんの存在する場所が光って見えてがんが検出できるという仕組みです。
 それらの画像検査からがんが疑わしいという証拠が重なってくると、次は気管支鏡検査に進みます。気管支鏡はカメラを口から気管支へ入れ、これまでの画像検査で影が見つかった場所から細胞を採取します。そして、その細胞を病理医が検査することで肺がんの確定診断に至ります。
 つまり、画像診断を重ね、そこで疑わしい場合は細胞を採取して病理診断をすることで、肺がんが確定診断されるということです。
肺がんの診断と治療 肺がんを診断するには?

肺がんにはどのような分類があるのでしょうか?

 ひと口に肺がんといってもいくつかのタイプがあり、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別されます。肺がん患者さん全体のうち、小細胞肺がんが約15%、非小細胞肺がんが約85%を占めます。非小細胞肺がんは、その中でもさらに細分化され、約6~7割が腺がん、残りが扁平上皮がんというタイプに分けられます。このように肺がんにも種類があり、それによって治療法が異なります。
 肺がんにはその病期の進行度によってⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ期というステージ分類があります。数字が若いほうが早期がんで、Ⅰ期・Ⅱ期のように、がんが肺に限局している患者さんは、外科手術でがんを取り除けば完治する可能性があります。Ⅳ期になると肺がんが他の臓器に転移しているという状況です(図4)
肺がんの診断と治療 肺がんの分類

図4肺がんの病期

日本肺癌学会編:患者さんのための肺がんガイドブック2019年版.図肺がんの臨床病期(ステージ).p70.金原出版
本著作物は日本肺癌学会が作成及び発行したものであり、本著作物の内容に関する質問、問い合わせ等は日本肺癌学会にご連絡ください。
日本化薬は日本肺癌学会から許諾を得て、本著作物を複製し使用しています。

 肺がんに対する知識として、早期発見であれば外科手術により完治する可能性があること、また、治療についてはがんのタイプ分類が重要であることを覚えておきたいと思います。

 第2回では、肺がん患者さんの大部分を占める非小細胞肺がんについて、Ⅳ期の進行がんと診断された場合の治療について伺います。

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