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知っておきたい進行肺がん
(主にⅣ期非小細胞肺がん)の治療

九州大学大学院医学研究院 呼吸器内科学分野 教授
岡本 勇先生

 肺がんは、部位別がんにおける死亡数では世界的にみても第1位であり、依然として治療の難しい病気と言えます。その早期発見が難しいゆえに、診断された時にはすでに外科手術ができないほど進行していることが珍しくないからです。
 しかしながら、進行肺がんの治療成績は薬物療法の進歩によって着実に向上しています。近年では従来の抗がん剤に加え、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせによって、多くの患者さんが治療を続けながら社会生活を送っています。
 肺がんの早期発見の重要性と検査の進め方、そして、もし進行肺がんと診断された場合の治療や注意点について、がん薬物療法専門医である岡本先生にお話を伺います。 【取材】2021年1月20日(水)(九州大学病院にてリモート取材)

岡本 勇 先生
第2回進行肺がん(Ⅳ期非小細胞肺がん)
患者さんの治療①
公開:2022年2月17日
更新:2023年4月

 第1回では、肺がんは早期発見が難しく、見つかった時にはすでに進行している患者さんが多いということを伺いました。第2回では、肺がん患者さんの約85%を占めるという非小細胞肺がんについて、Ⅳ期の進行がんと診断された場合の治療についてお話を伺います。

Ⅳ期非小細胞肺がんにはどのような治療を行うのでしょうか?

 がんの転移は、肺に発生したがん細胞が血液やリンパ液の流れにのって全身を回り、新しい場所を見つけ、そこで増えていくということです。肺がんの転移が多い臓器は、脳、肝臓、骨、副腎です。手術や放射線治療では血流に乗っているがん細胞は取り除くことができませんから、他の臓器に転移のあるⅣ期の肺がん患者さんの治療は、がんを手術で除去したり、放射線を照射したりといった治療ではなく、薬物を投与する全身的な治療が基本となります。

 転移のある進行がんについては、がんのある部分を切除する外科手術ではなく、病気の進行を抑えるための全身的な薬物療法が行われるのですね。

非小細胞肺がんの薬物療法とはどのように行うのでしょうか?

岡本 勇 先生

 現在のがんの薬物療法の種類は、殺細胞性抗がん剤、分子標的薬、そして免疫チェックポイント阻害剤の3つに大別されます。一人ひとりの患者さんにとってどの治療法が最も効果が期待できるかということを、検査を重ねて見つけていくことが重要となります。
 非小細胞肺がんのうち最も多くを占める腺がんにおいては、検査で採取したがん細胞を使って、がん細胞の発生や増殖に関わる遺伝子に変異があるかどうかを調べる「がん遺伝子検査」が重要です。肺がんでは、 Eイー Gジー Fエフ Rアール 遺伝子、 A L K 融合遺伝子、 B R A F 遺伝子、 M E T 遺伝子、 ROSロス 1ワン 融合遺伝子、 Nエヌ T Rラッ K 融合遺伝子、 R E T 融合遺伝子 という7つの遺伝子が発症に特に深く関わっており、がん細胞の中にこれらの遺伝子異常が見つかる患者さんは、分子標的薬が効果的であることが知られています。日本人の腺がんの患者さんは、いずれかの遺伝子異常を持っている方が全体の40%程度いらっしゃいます。
 がん細胞に起こっている遺伝子異常というのは、自分の子孫に遺伝するような遺伝子異常ではありません。そのがん細胞だけに起こっている遺伝子異常ですから、分子標的薬が使えるような遺伝子異常が見つかったとしても、お子さんやお孫さんにがんが遺伝するというわけではないので、それについてはご心配要りません。

肺がんの診断と治療 薬物療法

それでは、遺伝子異常が見つからなかった場合はどのような治療を行うのでしょうか?

 遺伝子検査をしても遺伝子異常が見つからなかった患者さんは、分子標的薬ではない薬物療法を行います。点滴の殺細胞性抗がん剤に加えて、最近では免疫チェックポイント阻害剤という薬を使用する治療法が開発されています。
 免疫チェックポイント阻害剤とは、患者さんの免疫を活性化させることによって、がんを攻撃するという薬剤です。活性化した免疫ががん細胞だけではなくご自身の他の臓器にも影響を及ぼし、免疫関連有害事象(irAE)という症状を呈することもあります。
 抗がん剤や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤はそれぞれ特徴的な副作用があります。治療を受ける前には、どのような副作用が懸念されるかということについて担当の先生とよく相談し、それらの治療法をお受けになる際には、ご家族とも相談の上で検討されるのがよいと思います。

*:免疫チェックポイント阻害剤は、免疫を活性化させることによって、全身のさまざまな臓器にも影響を及ぼし、皮膚障害、肺障害、消化管障害、
神経・筋・関節障害、内分泌障害など、患者さんによってさまざまな臓器に免疫に関連した特有の副作用を起こすことがあります。

 薬物療法では、効果だけでなく副作用についても十分理解した上で治療に臨むことが大切ということですね。

治療について疑問や迷いが生じた場合はどうしたらよいのでしょうか?

 がんになると、患者さんはインターネットや本などで自分はどのような治療法が一番良いのかということをお探しになると思いますが、今日では情報が氾濫しており、患者さんがご自身で正しい情報を得るのはなかなか難しい状況です。知り合いから聞いた、本やインターネットに書いてあったというものには、さまざまな情報が混在していますので、ご自身に合った的確な情報に行き当たるとは限りません。
 患者さんにとっては、自分がどういう状況か、なぜその治療が一番良いと考えられるのかということについて、担当の先生から直接お聞きになることが重要だと思います。また、その先生のお話がどうもよく分からないとか、説明が十分にされていないのではないかと感じられた場合は、セカンドオピニオンという制度もあります。セカンドオピニオンとは、主治医に紹介状を書いてもらい、別の施設の専門の医師からもお話を聞くという方法です。こうした方法も利用して、十分に納得されることが重要だと思います。

 がんと診断されれば誰でも不安になるものです。しかし、不確かな情報や思い込みで判断せず、まずは専門の先生に相談してお話を聞くことが大切ですね。

 第3回では、進行肺がんで治療を選択する際の考え方や、薬物療法への取り組み方についてお話を伺います。

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