北里大学病院 集学的がん診療センター
集学的がん診療センター長/副院長
佐々木 治一郎 先生
看護師長 長田 まゆみ さん
通院治療室主任(がん化学療法認定看護師)
八柳 千春 さん
がん相談支援室(がん看護専門看護師・認定がん専門相談員)児玉 美由紀 さん
レジメン管理室(がん専門薬剤師)
佐々木 寿子 先生
がん登録室(診療情報管理士)
香取 麻紀子 さん
管理栄養士 菊池 奈穂子 さん
患者さんのニーズや治療選択肢の多様化が進む中、一人ひとりの状態に合わせてさまざまな医療関連職が連携しあい、治療や支援を進めていく「チーム医療」が標準となっています。肺がん治療も手術から術後通院、場合によっては再発治療までさまざまな局面があり、長きにわたる闘病生活を乗り越えるには生活面や心のサポートも欠かせません。
各地のがん診療連携拠点病院では、診断・治療から退院後の支援まで一貫して関わる仕組みづくりが進んでいます。そのなかの一施設である北里大学病院集学的がん診療センターは、通院治療室、レジメン管理室、がん相談支援室、がん登録室の4室で構成され、臓器横断的・職種横断的なチーム医療を目指してこられました。各専門職種の役割と、がん診療連携拠点病院としての地域連携のあり方についてお話を伺いました。
【取材】2021年12月14日 集学的がん診療センター
公開:2022年10月18日
更新:2022年11月
第1回では、チーム医療により患者さんの受けるメリットと、がん登録室、レジメン管理室、通院治療室(外来化学療法室)の専門職の役割について伺います。
佐々木(治)先生 チーム医療とは、その中心に患者さんがおり、患者さん自身もチームのメンバーとして医療を進めていくものと言われています。患者さんの病気を医師が診るのはもちろんですが、チーム医療には患者さんの生活を支える上で各専門職がサポートできるというメリットがあります。生活面や心の不安などは特に医師には見えにくいところですから、そこを各職種が補ってくれるという仕組みです。
長田さん 患者さんにとっての最も大きなメリットは、専門職ならではの視点でさまざまな角度から見てもらえるということではないかと思います。患者さんが最も望んでいるのは医師の目線からの助言だと思いますが、チーム医療はご自分の今までの歩みを振り返ったり、意外な部分に気づいたりできる場所にもなっているように思います。チームでさまざまな人が関わるからこそ、患者さんも私たちも不安面がよく見えるようになるのではないかと思います。
それでは、実際にがんのチーム医療にはどのような人たちが関わっているのでしょうか。ここからは、がん登録室、レジメン管理室、通院治療室の役割について伺います。
香取さん 私たち診療情報管理士はがん登録室に所属し、がん診療連携拠点病院における院内がん登録業務を担っています。がんのステージ、がん組織に関する情報、来院の経緯などについて、診療録を見ながら登録していきます。それらの情報は自治体を通じて国に集約され、国や地域のがん診療の発展に有効利用されます。また、私たちは診療情報管理室にも所属しており、がん登録を診療情報管理室と協働して行っています。
がんの動向や登録方法は年々変わりますので、国立がん研究センターで行う研修に毎年参加して知識を更新しなければなりません。「院内がん登録実務中級認定者」の資格は4年ごとに更新試験があります。
診療情報管理士・院内がん登録実務者とは
1) 日本診療情報管理士会:https://kanrishikai.jp/
2) 国立がん情報センター がん情報サービス:https://ganjoho.jp/med_pro/training/cancer_registration/index.html
佐々木(治)先生 院内がん登録実務中級認定者は、がん診療連携拠点病院の要件として1名以上の配置が必要な資格です。がん登録には知識が必要ですので、院内ではキャンサーボード(がん患者さんの治療方針決めるカンファレンス)や、がんゲノム医療の症例検討会にも参加し、新しい情報を収集することも大切です。
佐々木(寿)先生 レジメンとは、抗がん剤、輸液、吐き気止めを時系列に組み合わせた治療計画のことで、抗がん剤の投与量、投与スケジュール、治療期間が記載されているものです。それを登録・管理するのがレジメン管理室に所属する薬剤師です。レジメンには通常の診療として使用しているものもあれば、まだエビデンスが不足していて一部の患者さんにしか使えないもの、臨床試験として登録中のもの、同じレジメンでも投与部位が異なるものなどさまざまな登録形態があります。
医師から新しい薬剤や治療レジメンの導入が申請されると、それに伴って必要となる輸液や制吐剤などをどのように投与するかといった全体の治療の流れを組み立てて新たなレジメンを作成します。新たなレジメンは有効性だけでなく、安全性についても十分配慮されているかどうかを院内で審査し、通過したうえで初めて登録できるようになっており、その一連の流れについても我々が管理します。新しいレジメンが増えていく一方で、使用頻度が低くなるレジメンもあり、年間を通してそれらの整理をするのもレジメンを管理する薬剤師の仕事です。
がん治療に関する専門的な知識が必要とされるため、がん専門薬剤師やがん薬物療法専門薬剤師といった資格を持つ薬剤師が従事しています。
がん専門薬剤師、がん薬物療法専門薬剤師とは
1) 日本医療薬学会:https://www.jsphcs.jp/nintei/2-1.html
2) 日本病院薬剤師会:https://www.jshp.or.jp/senmon/senmon1.html
佐々木(治)先生 患者さんへの安全面に十分に配慮した薬物療法を行うために、治療のスタートの段階から薬物療法を管理するのがレジメン管理室です。がんの治療薬は年間10種類ほど増えているので、それに合わせて支持療法(副作用の症状などを予防、軽減させるための治療)を含めてレジメンのひな形を作ってもらっています。また、内服抗がん剤の通院治療を受けている患者さんに対しての管理指導や、調剤薬局との連携活動も担っています。
八柳さん 通院治療室は看護師が抗がん剤の投与管理や治療前の問診を担当し、患者さんのお話を最もゆっくり聞ける場所でもあります。副作用の状況や、それによって生活上どのような支障があるのかを患者さんからお聞きし、場合によっては薬剤師に相談して薬剤師から医師へ処方提案してもらうこともあります。医師に言えないことも看護師には話してもらえることが少なからずありますので、患者さんが率直にお話しできる場として役立てるのではと思います。込み入ったお話であればがん相談室に引き継いだり、自分たちだけでは担いきれないところを薬剤師、栄養士にも相談したりと連携を取っています。
また、スタッフたちが薬剤投与時に抗がん剤に曝されることがないよう機材を工夫したり、看護師間で安全な手順が実施されているかどうか指導をしたりしています。
ここでも、がん関連の資格をもった認定看護師や専門看護師が従事しています。
がん関連の専門・認定看護師とは
1) 日本看護協会:専門看護師:https://nintei.nurse.or.jp/nursing/qualification/cns
2) 日本看護協会:認定看護師:https://nintei.nurse.or.jp/nursing/qualification/cn
第2回では、がん相談支援室と栄養相談、そしてがん患者さん同士の交流の場である「がんサロン」について伺います。